《女性というものは、口では何をいっても、絶対に、『きれいなホテル・豪華な食事・いいサービス』を求めている》


【D&D INN@カオサン】

成田空港の待合室で、旅行者に話しかけて、旅先の情報を入手する。

さて、この旅行者はちょっと自尊心をくすぐると、壊れた蓄音機のようにぺらぺらと情報を垂れ流し始めた。
彼は実際に半年ほど前に、バンコクからプノンペンに飛んで、プノンペンでベトナムのツーリストビザを2日で取った。

そのあと、プノンペンからホーチミンシティへの国際バスで10時間かけて国境を越えたらしい。
その後、ハノイへ足を伸ばした。

彼自身はベトナムの首都ハノイからバンコクへ飛んだのでラオスに関しての実際の情報は持っていなかった。
しかしラオスに関して彼の知っているところでは:

a)ラオスのビザをハノイで取れる.
b)短期間で取れるトランジットビザだと、ラオスの首都ビエンチャンから川を渡ってタイへの入国は無理だ。

結局「タイ〜(飛行機)〜カンボジア〜(バス)〜ベトナム〜(飛行機)〜ラオス〜(ボート)〜タイ」のルートだと、2週間あればぎりぎりビザを現地でとって旅行出来る、という話になった。

しかも、この話だとカンボジア・ベトナム国境を陸路で、ラオス・タイ国境を船で越えられるのだ。
これなら、結構自慢出来る話になるかもしれないな。

何度でも言うように、旅行の本質は、旅行者同士の話で「どれだけ相手の旅行より勝っているか」という点に尽きるのだからね。

ただ、旅行経験豊富な僕の感じでは、この旅行者はこんな国境越えの旅行を計画するタイプには見えない。
そんな決断力がある雰囲気ではないのだが…。

それとも、現在では誰でも彼でも旅行に出るので、こういうニュータイプが出現したのだろうか?
「それじゃあ、きっと、世界中あちこち行かれたんでしょうねぇ」と、誘い水をかけてみる。

「いやあ、実は仕事を辞めましてね、一年ほどで世界一周をしようとバンコクへ行ったら、そこでいろいろ友達が出来て、ずっとバンコクにいたんですよ」が答。
それで、たまたまバンコクで出会った旅行者がカンボジアに行くと言うので、ついて行ったら、国境をバスで越えることになってしまったそうだ。

なるほど、彼はよくいる「世界一周を計画したが、日本を出るのにエネルギーを使い、最初の国で時間を使い、旅行をする気力がなくなって、チン没してお金を使い、ずるずる半年で日本へ帰国」タイプなんだね。

実は、こういう旅行者は、バンコクにはうじゃうじゃいる。
バンコクばかりではなくて、世界中の日本人の集まる宿には、世界旅行の途中で動くのを止めた自称冒険旅行者諸君が群れを成している。

ロサンジェルスでも、3か月でアメリカ一周計画をしていた旅行者が、LAの安宿「ホテル加宝」に居着いて2か月半もだらだら過ごしていたのを知っている
そう誘ったのは、中南米帰りの、いやに態度のでかい、自称世界旅行者の西本という人だったよ。

あれっ、僕の名前と一緒だ(笑)。

インドネシアのジャカルタの安宿街で出会った旅行者は、「一年で世界一周するのだけれど、まず3か月インドネシアの友達のところでやっかいになる」などとふざけたことを言っていた。
その時は「長期旅行をするのに、友達のところに寄っては絶対にだめだ」と真剣にアドバイスしてあげたのだが、彼は僕の言葉を信じなかった。

世界一周旅行のポイントは、とにかく旅行の初めの段階で、むやみやたらに動き回ること。
最初のうちに移動する習慣を付けてしまわなければ、とてもとても世界一周などは不可能なのだ。

最初に居心地のいいところを見つけて、落ち着いてしまったら、それで終わりになることになっている。
それもその人の持つ運命で、実際に世界一周をするとなると、神から選ばれて愛されてないと出来ないといういい証拠になるわけだ。

しかし、この旅行者(佐藤という名前の人だと知った)がバンコクに長期滞在していたというのなら、現在僕の頭を悩ましている空港から安宿までの行き方について、いいアドバイスをくれるだろう。
「そうですね〜、僕は行きつけの宿があるんで、空港からタクシーで直行しますが、一緒に行きますか?」と誘ってくれた。

彼の定宿は、マレーシアホテル界隈にあるらしい。
僕も土地勘のないところではないが、マレーシアホテル界隈は、現在ちょっと旅行者のメインストリームからは外れているところだ。

もちろん、僕としてはどんな宿でも構わないといえば構わない。
どうせ今夜は夜を過ごすだけで、次の日にはカオサンへ行って、ビザの条件や航空券の値段を調べなければならないのだから。

カオサンロードが現在の安宿旅行者の集まるところで、ここに行けば旅行に必要なものが何でも手に入るのだ。
それには、同行しているY嬢の意見を聞かなければと、佐藤氏を誘ってY嬢の座っている席へ行った。

佐藤氏は僕のような、ジーンズにTシャツの、金のなさそうなおじさんが、若くて純情そうなピチピチギャルと一緒に旅行しているのを知って、かなり驚いたようだった。
しかも、二人でホテルの同じ部屋に泊まるということを知って、おしっこを少し漏らしたようだった。

世の中は人格さえ立派ならばなんでもできることを知らない、世間知らずの男性らしい。
佐藤氏をY嬢に紹介して、安ホテルに泊まる話をすると、Y嬢は「私はどんなところでも泊まれますよ〜」と言う。

しかし、女性というものの本質を知らない諸君、こういう女の言葉をそのまま信じてはだめだ。
女性というものは、口では何をいっても、絶対に、きれいなホテル・豪華な食事・いいサービスを求めている。

長期旅行を自慢する人の中には、それを誤解して、安宿を泊まり歩いたり、汚い屋台で食事をするところを女に見せる人もいるとか。
「何て旅慣れてるんでしょ!」と感心させて、女を口説けると誤解しているんだね(笑)。

残念ながら、それは間違いだ!

東南アジアの屋台に女の子を連れていって、女の子が「ワー、とてもエスニックで、やはり本場ですねー。日本では経験出来ませんわね!」と言ったら、「こんな小汚ない屋台に連れてきて、私を何だと思ってるのよ。このタコ!」と言う意味なのだから。

再度断言しておくが、金で落ちない女はいない。
しかし、旅行テクニックでは女は口説けない。

もちろん、セックステクニックは大切だ。
しかし、まず口説かなければセックステクニックも発揮出来ないじゃないか。

まあ、僕はこの旅行に出たいきさつがいきさつでもあり、Y嬢とエッチしようという気は特にない。
もちろん、彼女から「どうしてもして!」とおねだりされれば、それは断れないだろうから、その覚悟はある。

しかし「世界旅行者」は普通のエッチでは満足出来ないものなのだ。
Y嬢のような20歳を越えたばかりの、まだまだ普通の女の子では僕の欲望の対象になるには、難しいんだよ。

それに今回の旅行には、ロウソクもムチもロープも手錠もバイブレーターもポラロイドカメラも持ってきていないのだし…。
でも、僕と一緒にいる時はそんなひどい宿には泊まらなかったという記憶は残してあげたい。

佐藤氏の話では、現在はバンコクには「TAXI METER」と屋根にマークをつけたタクシーがあって、それだと200バーツ程度でバンコクの中心街へ行くという。
ならば、それで直接カオサンへ向かってもいいわけだ。

しかし、カオサンに山のようにある安宿のどこへ泊まったらいいか、見当がつかない。
いくら夜中でも開いているというカオサンでも、当てもなくうろうろするのはいやだ。

それに、一度カオサンでホテルを取ってしまったら、わざわざ次の日に宿を移ることはしないだろう。
そして安宿街では、安くていいところから確実に埋まって行くものなのだ。

Y嬢の持っていたガイドブックによると、「カオサンロードに面した宿は夜中までやかましい」とのこと。
佐藤氏にこれを相談すると、彼自身はカオサンに泊まったことはないが、ひとすじ裏の通りにある「J&J」とかいうホテルがいいという噂を聞いたことがあるらしい。

いい情報がいろいろと手に入った。

Y嬢が僕にささやく。
「西本さんはすごいですね〜」

「なんで?」
「だって、世界中旅行しているのに、佐藤さんにそのことを言わなかったでしょ」

うふふっ、まあ、そりゃそうだ。
だって、TPOを心得ていなければならない。

僕は佐藤氏から情報をもらうために会話をしたのだ。
だったら自分の旅行の自慢をしても意味がない。

僕の旅行経験を出す時は、それはもっともっとくだらない、素人のくせに大きな顔をするニセモノと出会った時だ。
そして、その時は必ず間もなく来る。

だって、僕はド素人旅行者の巣、バンコクへと向かっているのだから。
搭乗のアナウンスと同時に、Y嬢と僕は飛行機へと向かった。

早く乗り込まないと、頭上の荷物沖のコンパートメントが他の人に占領されてしまうからだ。
席に着くと、早速レミーマルタンの封を切って、鮭ジャーキーを食べ始める。

でも旅の始めに、いい情報が簡単に手に入ったぞ。
さいさきがいいな。

ま、それもこれも、すべては神の導きだ。

http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080407#p3