《会社に適応しさえすれば、すべてがうまく行っていた時代もあったし、いまもあるよね》

こうして2002年7月23日、世界旅行者は東京駅午前6時発の最初の新幹線「のぞみ001号」で、大阪へと向かった。
1999年のアジア横断旅行のときは、ひかり101号で新神戸へ向かった。
新神戸駅から、市営地下鉄、ポートライナーを乗り継いでポートターミナルへ行き、そこで燕京号に乗って、天津へ向かったものだ。
今回は、一番最初の新幹線がのぞみ。
新大阪へ行って、大阪市営地下鉄を使って大阪港のコスモスクエア駅へたどりつく。
コスモスクエア駅とは、なにかわけのわからない中途半端な名前だね。
ただ、そこから大阪港国際フェリーターミナルへ行くのがちょっと手間取るという情報が入っている。
前回のひかり101号のときは、特に新幹線が混雑しているということもなく、新幹線に乗っても、「新幹線も久しぶりだなー」という以外、何の感慨もなかった。
だが、こんどの「のぞみ」は大きく違っていた。
ガラガラだろうとの予想とは大違い。
きちんとスーツを着てネクタイを締めたサラリーマン軍団で7割くらいの席が占められていた。
僕が座ったのが、三席並んだ海側のA席だったが、通路側のC席にはサラリーマンが座って、半分眠っていた。
これは困るよね。
だって、朝一番なのだから、僕としてはトイレにも行きたいわけだしさ。
サラリーマン、OLさんたちを最近間近に見る機会のなかった世界旅行者としては、新鮮な感慨があった。
久しぶりに「そういえば、日本は会社社会だったんだよなー」との感慨にふける機会を得たわけだ。
世界旅行者が大阪港を正午に出発する中国行きのフェリーに間に合わせるために、早起きして始発の新幹線に乗るのは、それは理由がある。
だって、乗り遅れたら、中国へ行けなくなっちゃうんだからさ。
でも、サラリーマンが、朝6時発の新幹線に乗って、新大阪に午前8時半に到着して、おそらくは9時の会社の始業時間に間に合わせて、なにか意味があるかな。
どうせ、眠くて仕事なんかにはならないのにね。
もちろん僕はサラリーマン諸君のキモチはよくわかっている。
彼らは、ただ、始業時間に間に合うように早起きをして新幹線に乗ってきたということで、「仕事に熱心な振りをしている」わけなんだよ。
これが日本社会の癌なんだね。
みんな仕事に熱心な振りをするということなんだけどさ(笑)。
日本の会社の生産性の低さは世界でも有名だ。
それは、労働時間が長いだけで中身がスカスカだということを示している。
僕もある大企業に勤めていたことがあり、一流企業勤務の友人も多い。
若いころの共通の話題というのが、「会社ってさ、みんな仕事をしない割に会社にべたーっとくっついてて、非能率的だねー」ということだった。
日本の会社の特徴は、ほとんど実際の仕事はしないで、だらだらと仕事をする振りをしたほうがウケがよく、出世もするということじゃないかな。
日本の民間会社程度で少々偉くなったところで仕方ない、と思うけどさ(笑)。
しかし、日本の会社でまじめに周囲に合わせて仕事をしている振りを続けていると、年功序列で地位も賃金も上がっていく。
交際費も使えるし、出張費も誤魔化せるし、下請けからの接待もあり、会社の経費でいろいろと楽しいことができる。
日本の会社には一般日本人が欲するすべてがそろっていて、社会的な体裁も取り繕える。
会社には運動会も、歓迎会も、送別会も、忘年会も、新年会もあり、おいしそうな遊び人のOLもいて、セックスには不自由しない。
一流会社や中央の官公庁では、上司から結婚相手を紹介してもらえる。
どんな個人的な魅力のない人間でも、一緒に話をする相手ができる。
何も考えなくても、会社のこと、仕事のことを話せば、なんとなく中身があるようなことをしている気になれる。
仕事以外では、スポーツ新聞で読んだ、プロ野球、サッカー、競馬、芸能記事の内容を知っていれば、話題に事欠かない。
まあ、会社にべったりくっついていれば、日本人としては、大成功なんだよ。
日本人に必要なものは、すべて会社が与えてくれるんだからさ。
僕が会社を辞めたのは、そういうミエミエの嘘がいやだったということもあったんだと思うよ。
みんなで仕事をする振りをするばかりか、まあ勤務時間内に仕事の振りをするのは我慢してあげてもいいけどさ、勤務時間後もお酒を飲みながら、会社の悪口を言ったり、会社の欠点を指摘したり、会社の将来を語るなんて、僕にはそれができなかった。
だって、会社なんて、自分とは関係ないんで、どーでもいいんだからさ。
勤務時間外まで、会社のことを考える義務はないっつーの!
僕は、それがきれいに見えていたってわけなんだけどね。
でも、見えないまま会社に取り込まれて、会社人間に自分を改造してしまった人も多かったようだ。
だいたい3年も会社勤めをしていると、自分と会社が一体化してしまい、すべての会社員にとって会社は共同体になってしまうわけだ。
つまり、小さな農村社会みたいなものなんだね。
日本古来の小さな農村社会では、共同体としての村そのものが最も大切なもので、個人の意思や個人の自由などというものは存在しなかった。
しかし、村社会に適応すれば、そこには村祭りがあり、村祭りの夜の乱交があり、後家さんや若い娘への夜這いがありと、セックスには不自由しなかったわけなんだね。
それと同様に、日本の会社組織には、宴会があり、社員同士の乱交があり、夜這いはないかもしれないが、行き遅れのOLさんという新入社員はだれでもOKのセックスの相手が存在するわけだ。
つまり、日本の会社というものは、会社員に対して、セックスを提供することで安定して存在しているわけなんだよ。
だから、会社と一体化してきた会社人間にとっては、リストラが一番怖いわけだ。
だって、リストラされたら社内恋愛、つまりセックスができなくなっちゃうからね。
中高年がリストラにあって、自殺する人が増えている。
その本当の理由は、会社を辞めてしまうと、新入社員のOL、部下のOLとセックスができなくなるので、それで絶望してしまうからなんだよ。
日本のサラリーマンなんて、男性としての魅力なんかもともとない。
だから、会社を離れたら一生、素人女性とセックスなんかできなくなるわけだからね。
これで、日本の中高年会社員の自殺の理由がはっきりと理解できるだろう。
繰り返すが、中高年会社員は、リストラを苦にしているんじゃないんだよ。
会社のOLさん、つまり素人女性とセックスできなくなるのを苦にして自殺しているわけなんだよね。
僕は外国人に日本の説明をするときに、いつもこういうわかりやすいお話をしている。
すると、「なるほど、日本人サラリーマンが会社べったりな理由が、やっとわかったよ。こんな話は初めて聞いたっ!」と感動を与えているんだよね。
こういう明確な説明ができるからこそ、世界旅行者は外国人に人気があるわけなんだよ。
ひょっとして、国連で演説でもさせてくれないかなー♪
(「世界旅行者・海外説教旅」013)