チュニスの天才旅行者3 《三流旅行世界の出現》
さて、旅先にうようよと近頃出現して回りに迷惑をかけているのが、三流大学の学生だ。

三流大学の学生の特徴は、当然ながら、頭が悪いところだ。
しかし、もちろん頭が悪いだけで三流大学に入れるわけではない。
頭が悪いだけなら、残念ながら二流大学入学の資格しかない、と三流大学の募集要項にちゃんと書いてある(と、思う)。
誰でも認める三流大学生になるためには、もうひとつ大きな条件が必要なのだ。

さて、誰か、分かるかな?
はい、はい、そこのきみ、答えてごらん。

ウ〜ン、ちょっと惜しかったね。
『パジャマのボタンを自分でとめられる』じゃないんだよ。
ところで、君もひょっとしたら、三流大学生かな?
しかたない、教えてあげよう。

その条件とは、『自分が頭が悪いのに気がつかない』だ。

まあこれが分かった人は、たとえ三流大学を卒業していても、社会生活の中で知らないうちに進歩をして、二流大学卒のレベルまで達しているので、喜んでいい。(僕が保証する)

三流大学の学生は、頭が悪い上に頭の悪い自覚がないので、自分を見つめることができない。
自分を正確に評価できない人間は、いくら経験をしてもそこから何かを学ぶことはできない。
どんなところへ旅に出ても、経験を自分のものとして取り入れるための自分自身の基本がないからだ。
だから、旅に出る理由自体が存在しない。

旅に出る理由がないのだから、彼らにとっては旅は「金の無駄使い」なのだ。
このレベルの人間は『養老の滝』や『天狗』で体力だけでアルバイトをして、そのアルバイトをした金は、マスコミの作るブームの通りに、車に使ったり、グルメをきどったり、役にも立たないローレックスを買ったり、女に貢いだりしていれば良いのだ。

こうしていれば彼らも少しは日本経済の役に立つことができる。
ところが、誰でも海外旅行に出る時代には、彼らにも海外へ出る理由ができてしまった。
国内では嘘がばれると気付いた日本のマスコミが、ついに海外旅行に目をつけてしまったからだ。
その極端なものが『地球の歩き方』という日本のガイドブックだ。
この本はもともと卒業旅行の学生のために作られたものだという。
昔の大学生の卒業旅行というのは、ヨーロッパ一か月と決まっていたし、その頃はこの本は役に立つというので評判だった。
ただ残念だったことは『ヨーロッパ程度を旅行するのに、はじめからガイドブックなどは必要ない』と誰も気付かなかったことだった。
この『地球の歩き方』は調子に乗って世界中のガイドブックを出し続けた。
それと共に、どんどん『役に立たない』という噂が広がり始めた。
「役に立たない」ばかりか「害になる」とか「迷惑だ」という話も出てきた。
中には『地球の歩き方』を使ったために『間違った情報で大損をした(これは僕自身の話だ)』とか『間違った情報でレイプされた(これは先日週間文春がレポートしたよね)』とかの問題が起きた報告もある。

そこで経験の豊富な旅行者の間では、この本は『地球の迷い方』とか『地球のだまし方』と呼ばれて、笑い話や失敗談のネタ本として使われるようになり、また別の楽しみが増えたわけだ。

これはこれで何も問題はない。
世の中にはうそつきも大ぼら吹きもいて不思議はないのだし。
みんなその所をわきまえて、幸せに共存してきましたとさ。
ところがここに三流大学生と『地球の歩き方』との遭遇が起こった。
これを『世界旅行者協会』では『ビッグバン』と呼ぶ。
ここからすべてが始まったのだ。

さて、『ビッグバン』とは宇宙の始まりだが、この『ビッグバン』は三流大学生を中心にする新しいタイプの旅行者(三流旅行者)による新しい旅行(三流旅行)の出現によって、まったく新しい世界(三流旅行世界)が始まったことを言う。

この言葉は『知恵蔵』や『IMIDAS』や『現代用語の基礎知識』にも載る予定なので、就職予定の学生は暗記しておくように。

出現した新しい世界について書くには、もう紙数が尽きた。
実はこの文章は『チュニスの天才旅行者』についてのものだったのだが、だんだんずれて『世界中の三流旅行者』になってきたようだ。

でも安心していい。
最初に三流旅行者を説明しておけば天才旅行者との比較が簡単だろう。
僕は講演で良くこんな手を使うんだ。

分かると思うけれど、僕にしゃべらせたら、5〜6時間は原稿なしで講演できるんだよ(講演依頼を受けつけます。講演料などは相談に応じますよ)。