6:J&JOEへ(8月24日)

すっきりと目が覚めて、窓のカーテンを開いた。
全裸のY嬢が窓を開けようとしたが、この部屋の窓は完全に閉まっていて開かない。
この点とベランダがないところが、ちょっとこのこの値段(ツインルームで2人で泊まって2千円ちょっと)、でプールもついているマレーシアホテルの問題かな。

海外のホテルで朝目が覚めたら、窓を大きく開いて、外国の町のさわやかな空気を胸いっぱい吸いたいものだ。
とはいっても、バンコクの町はもう動き出していて、大気には排気ガスが充満しているに決まっているのだが。

窓から見るバンコクの町には高層ビルが林立している。
思えば、僕が新婚旅行でバンコクへ来たのは、まだ現在のドンムアン空港が出来る前だった。
空港とバンコクを結ぶ高速道路も未完成で、僕たちが頼んだタイ航空マークのリムジンは、混雑した道路を避けて、川の土手を疾走して、シンガポール航空機の出発にぎりぎり間に合わせてくれたっけ。

それ以来何度も、いろんな形でバンコクを訪れて来た。
その度にバンコクはますます近代的に変貌し、街角にはマクドナルドやケンタッキーフライドチキンが次々と出現し、若者もどんどんファッショナブルになってきた。
そして、それに反比例して、僕のバンコクへの愛着もなくなってきている。

起きたのは早かったが、ホテルを出るのは遅くなった。
その理由は、あんまりはやくカオサンへ着いても仕方がないからだ。
だいたい世界中の安ホテルのチェックアウトは正午の12時なので、昼近くにならないと部屋が空くかどうかはっきりせず、朝早く行っても「昼に来い」と言われる場合が多いのだ。

前回、ホアランポーン鉄道駅のそばにある有名な日本人宿「ジュライホテル」へ行った時もそうだった。
マレーシアとの国境の町・ハジャイから2等寝台車に乗ったのだが、列車がホアランポーンへ着いたのが朝の7時頃だった。
町はもう活発に動いていたが、ジュライの受付は「部屋が空いていない」とつっけんどんだった。
この有名なホテルは、住み着いている日本人がほとんどで、いわゆる旅行者は少ない、とあとで知った。

以前、TBSの報道特集でもこのホテルのことが大げさに紹介されたことがある。
そのレポートではこのジュライホテルに宿泊している連中が、まるでバンコク滞在の旅のベテランのような描き方だったが、じつは、ここは日本のガイドブックにも紹介されているほどで、旅行者ならば誰でも知っている素人向けの宿に過ぎない。

このTBSのレポートは旅行者仲間でもそのあまりの中身のなさで話題になったのだが、ここに長期間いる連中が薬と女に溺れて昼間は外に出ないのは確かだ。
でも、そんなことはわざわざ大げさに報道するほどのことではない。
東南アジア旅行者の典型的なタイプなので、ありふれた、よくある話なのだ。

しかし、この日本人の間には3つほどの派閥があると今回知った。
(この詳しい話は、僕がカンボジアへ飛ぶ時に出会う旅行者のところで話そう)
それで、話のネタに「一度は泊まりたいジュライホテル」というわけで、僕はフロントに「どうしても宿泊しなければならない理由」(もちろん口からでまかせだが)を説明し、わざわざジュライにその日の予約をいれて、昼頃に戻ってきてやっと部屋を手に入れたものだ。

10時頃になったので、バックパックをえいやっと担ぎ、マレーシアホテルを出て、ラマ4世通りへと歩く。
ついでに、その途中の通りにあるKTEトラベルへ顔を出し雑談をする。

その話では:

バンコク〜プノンペン(往復航空券) 4650B
バンコク〜ホーチミンシティ(往復) 6600B
ベトナムのビザは6ワーキングディ(土日を除いて6日)かかって、1300B

ということだ(1B=約4円)。

まあ、これはこれとしてメモしておく。
カオサンに行けばもっと安く手に入れられるだろうが、その比較の基準として聞いただけだからだ。

さて、このマレーシアホテル近辺からカオサンへと向かうのはなかなか大変だ。
以前の旅行の時に入手したバンコクのバスマップをポケットから取り出す。
バスマップにはちょうどロンドンのバスマップのように、道路上に通過するバスの番号が書いてあって、それをたどって、行き先までのバスを捜すのだ。

しかし、久しぶりに見るので、よくわからないなー。

目の前を人をいっぱいに乗せたいろんな番号のバスが、どんどん通り過ぎて行く。
首をひねっていると、Y嬢が、「トゥクトゥク(サムロともいう三輪の小型タクシー)で行きたいな〜」と言う。
そこでトゥクトゥクを止めて、料金の交渉をすると「カオサンまで100B」だと。
昔はちょっと適当に走って、20Bから30Bだった。
確かにカオサンは遠いのだが、これはちょっと高すぎるだろう。
僕は「50B」と言ってみるが、運ちゃんはなぜか100Bと言い張って値下げをしない。

こちらも町に着いたばかりで料金の感覚がないので、トゥクトゥクを利用するのは止めて、タクシーで行くことにした。
タクシーを止め、メーターを倒すのを確かめる。
ホアランポーン駅のところで水路に沿って右に曲がり、そのあとバイク屋街のようなところへ突っ込んでからはさっぱり方向感覚がなくなった。
ぐるぐる回って「カオサンでっせ!」と止まった時、メーターは71Bを指していた。

だから遠回りをされたのかどうかよくわからないが、読者は「カオサンの目印・民主記念塔からマレーシアホテル地域の入口・キックボクシングのルンピニースタジアムまで70B以下」と覚えておけば現在の一つの基準になるだろう。
これは、1B=4円だから280円程度、つまり日本の感覚で利用すればなかなか安いのだ。

だから、この程度の金を使うつもりならば、別に初めてバンコクに着いて個人旅行をしても、全く問題はない。
無理にバスを使う理由はないのだ。
こう考えれば、初めて個人旅行をする場合も、気軽に出来るのじゃないかな。

例えばLAX(ロサンジェルス国際空港)から有名な安宿「ホテル加宝」へ行くのに、空港から無理やりにバスを使う必要はないということだ。
RTDバスならば1ドル10セントでリトル東京へ着くが、僕はいつも10ドルのシャトルバスを使う。
これならホテルの前まで直行してくれるので、時差ぼけでぼーっとしていて荷物も持っている場合は楽なのだ。
なかには、どうしてもRTDバスを使って、空港からホテルまでバスで来たことを自慢する世間知らずもいるが、無理に安いバスを使っても仕方がない。
誰でも出来ることをわざわざしたところで、誰も評価しないので意味はないのだ。
それに、「ホテル加宝」には、「空港から歩いてきた」人間も来たことがあるのだし…。

カオサンに入ると、昔、一度見学しに来たときと同じように、白人旅行者がうじゃうじゃいる。
土産物屋もレストランも、旅行代理店も写真屋も、そしてホテルもあって、それらが狭い通りに固まっている。

タクシーでぐるぐると回ったせいで、方向を間違えていたみたいでちょっと迷った。
レストランで暇そうにしている旅行者に方角を確かめてみる。
カオサンの一本南側にある細い道(入口は屋台のテーブルや椅子でふさがっていて道のようには見えないが、そこを無理に突入する)を西側から入ると、道がちょっと広くなっていて、そこに「J&JOE」というゲストハウスを発見した。

中庭にテーブルがあって、長期滞在者らしい白人旅行者が数人いるのを見る。
このゲストハウスは結構まともなようだ。

「ツィンで一部屋あるかな〜?」と尋ねる。
「あるけれど、250B」という返事だ。
「見たいんだけれど」

レセプションにいた女の子が男の子を呼び、男の子がその「J&JOE」の門を出て、細い道を更に奥へ連れて行く。
着いたところは、どうやら出来たばかりの白い壁のホテルだ。
「J&JOE」の新館だ。

二階奥の部屋を2つ見せてもらった。
部屋はベイシックだが、新しくてきれいで、扇風機と洗面台、シャワーとトイレ、小さなベランダ付き。
窓には蚊をよけるための網が作りつけになっている。
これならば昨夜のKTEゲストハウスの240Bの部屋よりずっといい。
やはり現在はカオサンが旅行者のメッカになっているみたいだね。
どの部屋も同じタイプだが、ベランダから見晴らしのいい方に決めた。

さて、これからカオサンの本格的な探険に取りかかろう。
まだやっと24日の午前中だ。
成田を発ってやっと一日たったぐらいだ。

(駆け足#6)

 

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