《LAで立ち小便をする》 1997

 

日本から海外に出て、本当に一番ビックリするのは、特にヨーロッパやアメリカでは、トイレが少ないところだね。

これは民族的な伝統で説明できる。
農耕民族の日本人は、いつでも田や畑で、または林の中で用を足してもなにも問題がない環境の中で過ごしてきた。
それに対して、狩猟民族であったコーケイジアン(白人)は、森の中で下手に用を足しているとポコチンを蛇に噛まれたり、大草原でしゃがんでウンコをしていると、突然地平線のかなたから現れたバッファローの集団に踏みつぶされたりする、という厳しい環境にあった。

そこで、白人はとーにーかーくー、トイレに行かない体質に進化したわけだ。

ヨーロッパ大陸からの列車が到着するターミナル、ロンドンのビクトリア駅に、トイレがたった一カ所しかない、と言ったら、ビックリする人も多いだろう。
しかも、トイレに入るゲートを開けるのに、コインが必要だよ。

日本でこんな事をしたら、東京駅の通路は一日で巨大な便所に変貌するだろうね。
考えるだけで、ぞっとするので、この話はこれ以上発展させないで置こう。

また、ロンドンの地下鉄(これは「チューブ」というのね)駅にはトイレがない。
確かな記憶はないが、パリのメトロにもトイレはなかった。

日本のように、どこでもここでも簡単に用を足せる状況があるのは珍しいのだ。

 

さて、僕はLAのホテルのロビーで、レンタカーを借りている旅行者を見つけた。

僕はLAをバスで移動するのが安くて便利だと主張しているが、もちろんレンタカーを利用して動き回った経験もたくさんある。
バスにも乗った、レンタカーも使った。
自分で大型バイクを所有して、乗っていたこともある。
なにしろ、カリフォルニア州の運転免許(車と、バイク)も持っているのだから。

ティファナを見るために、メキシコとの国境、サンイシドロまで行ったこともあるし、某有名週刊誌の取材のお手伝いで、サンフランシスコまで、レンタカーで往復したこともある。
レンタカーでモハベ砂漠を走ったことも、パームスプリングスへ行ったこともあるし、サンタバーバラ、ソルバングも訪れた。
カリフォルニアのこれという所へは、レンタカーを使って、ほとんどすべて訪問している。

こいう、自分のレンタカー利用の膨大な経験を基にして、はじめて「LA市内の移動には、バスがいいよ」と言っているのだ。

LAをレンタカーで動きまわるという話は、当然、旅行ガイドブック編集者がバスを乗りこなす能力がなく、現地の知り合いも車でしか移動したことがないことから、「LAは車がないと移動が大変」と、勝手にでっち上げたお伽噺だ。
本当は、乗り放題のパスを使って、ちょっと頭を使って、LAを動きまわるのが一番いい。

 

でも、もっといいのは、他人の車に乗って動くことだよね。

だって、タダだから。

もちろん、それには「LAの地理を誰よりも深く知っているので、ナビゲーターになって行き方を教えてあげる」という条件が必要だが。
というわけで、僕は知り合ったばかりの旅行者を、言葉巧みに、ロデオドライブへと誘い出した。

ロデオドライブというのは、ビバリーヒルズの近くの有名ブランドの並ぶ通り。
僕はフェラガモやブルガリやティファニーやグッチやなんかには興味がなく、行きたいところは、ただ「GUESS?」の店だけだ。
ちょっと自分用のジーンズとTシャツをチェックしたいだけ。

自分で行きたいのだが、「ロデオドライブに行かないとLAは語れないねー。これから連れてってあげるよ」と、恩着せがましく、車に乗り込む。

自分で運転しないので、心置きなくビールを引っかけながら(ビールを飲むところを見られると問題がおこるので、ビールを紙袋にいれたまま飲むのもテクニックだ)、助手席から、そこを右へ、車線を移動しろ、などと命令を下す。

車はダウンタウンのクリスマス前の雑踏を抜けて、ウィルシャー通りを走り、ちょっと周囲のビルが高級な雰囲気になったころ、右へ曲がってロデオドライブへと入る。
さすがクリスマス前の週末、ロデオドライブの両側には車が隙間なく並び、とても駐車スペースなどはないが、そこが「世界旅行者」、ちゃんといつでも安く駐車できるところを知っている。

そのパーキングメーター式の公共駐車場に車を入れてGUESS?の店に行ったころは、先ほどのビールで若干尿意を催していた。
カウンターの、ファッションモデルのようなスタイルのいい女性に「トイレはありますか?」と聞くが、「ありません」とのキッパリした答え。

小汚い東洋人にはトイレがあっても使わせないだろう、とは予想していた。
「それなら、店の真ん中でおしっこしちゃうぞー」とか「フィッティングルームで出来ないだろうか」と、お茶目な気持ちが湧いたが、あとあとの訴訟や弁護士費用を考えて、思いとどまる。

むーん、ちびりそうだ。
まいったなー。
運転していた旅行者も、「僕もトイレに行きたいんですが、なさそうですねー」と、不安げに言う。

ここで、すぐに解決策を見つけないと、「ロデオドライブで立ち小便して逮捕、恥さらし日本人旅行者に全米が激怒!」という新聞記事が明日の朝刊に載ることになる。

そこで、僕はすーっと、駐車場の方へ歩を進めた。

さっきの駐車場入り口横のごみ置き場へ入る。
そこで、おもむろにジーンズのファスナーを開き、じょんじょろりん、じょんじょろりん、じょんじょろりん…、じょんじょろりん、ぷるん(ポコチンを振る音)、と用を足した。
いっしょの旅行者も、「さすがですねー、西本さん。ここはいいや!」と、感動して、いっしょに用を済ませる。

このごみ置き場はコンクリートのブロック塀で囲まれているので、覗き込まれない限り、なにをしているかわからない。
高級ブティックの並ぶロデオドライブで、わざわざごみ置き場を見る人間はいない。
ごみが置いてあるのだから、少々におっても問題ない。

ロデオドライブには公衆トイレがない(少なくとも観光客が簡単に見つけられる場所にはない)。
ロデオドライブでオシッコをもらしたら、大恥をかくことになり、新婚旅行で来ていた場合は、さっそく成田離婚だ。

というわけで、この貴重な情報をここで特別に公開しよう。

RODEO DRIVE をずんずん北へ進むと、「サンタモニカ通り」へ出るが、その一本先の「サンタモニカ北通り」とのほんの間に、ちょっと狭いブロックがあって、ロデオドライブの両側に2階建ての駐車場がある、この入り口の手前だ。

ここに人目が避けられるゴミ集積場がある。
ここを覚えておくと、ガールフレンドから頼もしく思われる(かもね)。

ねー、「世界旅行者」の話は役に立つでしょ?

pee

このロデオドライブのトイレ問題について、LA在住のNさんから、e−mailをいただきました。紹介しておきます。

>>まず、ロスのトイレ事情についてですが、やっぱりトイレ以外でしてはいけないと思います。
>>おまわりさんに見つからなくても、やっぱり、だめですよ。 アメリカではどんなにステータスの低そうな人たちでも、
>>日本のソーリのようなことは決してしないのですから。
>>そのために、ロス中には(アメリカ中だと思いますけど)一定の区間ごとに必ずガソリンスタンドがあって、
>>そこではトイレをお客さんに提供する義務があるのですよ。 もちろんご存知だと思いますが、念のため。

(お返事)
知らなかったなー。
でも、このエッセイのポイントは、ロデオドライブでトイレに行きたいという緊急事態のことなんです。
カップルでLAのロデオドライブなんかで、エルメスやグッチ、ティファニーという所で買い物をしていて、女の子が急にトイレに行きたくなった時に、このゴミ集積場をさっと教えると、「頼りになるひと…」と、その
夜のサービスがぐっと良くなるということなんです。
ロデオドライブのトイレは、どこにあるのか、知ってる人が居たら教えてね。

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