《空港から一人でタクシーに乗っては危ないから、NGOと一緒になるか、女子大生と一緒になるか迷う》 @ダカール/セネガル

 
【ダカール鉄道駅(2001)】


この西アフリカ旅行記が載っている「大人の海外個人旅行」です♪

ダカール行きのフライトは、モスクワ時間の午前9時35分に出発することになっている。
そうすると、ウェイクアップコールは、太ったロシアおばさんが言った、この「3時間前」の午前6時半頃にあるだろう。

しかし、こんな話を信じていては、だめだよ。
空港近くにある近代的ホテルだからといって、なにしろここはロシアなのだ。

ウェイクアップコール装置が故障したり、時間の設定を間違っていることは十二分に考えられる。
だから、僕はもちろん、自分で持って来たドイツ製「ブラウン」の目覚し時計を、その前の6時20分に鳴るようにしてある。

しかし、もちろん世界旅行者は、目覚し時計も信じない。
世界旅行者は、何も、誰も、すべてを全く信じないのだ。

そこで、自然と、世界旅行者の身体は、午前5時に目が覚めてしまった。
そうして、目覚し時計が鳴るのも、ウェイクアップコールがかかるのも、自分で確認した。

まあ、これは、慎重だというよりも、ただ、僕の気が小さいってだけなんだけどさ。
そのおかげで、朝のシャワーも浴びられたし、朝ゆっくりとウィスキーを飲めた(おいおい)。

だって、見も知らぬアフリカの町に行く朝に、酒も飲まずに正気でいられるかいってんだよ、ねえ。
そろそろ部屋を出ようとしているときに、ドアがノックされた。

これは、昨夜お願いしておいた、日本人美女が約束を守ってくれたんだね。
すぐに、手荷物を持って、部屋を出て、女の子3人に追いつき、エレベーター前で、自分のパスポートを受け取る。

下の小さな部屋で、いっしょに朝食をとった後、バスで空港へ向かう。
昨日のトランジットカウンターに並んで、ダカール行きのSU413便の席を指定される。

僕の席は、10C、これは、やはりアイルシート(通路側の席)だ。
ダカール行きは15番ゲートで、この前で、だらだらとフライトを待ちながら、乗客同士で話をして時間を潰す。

昨日の日本人美女は、他の女性二人といっしょで、なんとNGO組織の人だという。
二人がダカールへ、一人がギニアのコナクリへ行って、そこの学校などでボランティアをするのだとか。

うーん、まじめな人たちなのだ。
ただの遊び人の世界旅行者は、ただ、冷やかしに行く自分が恥ずかしくなる。

見渡すと、他にもう一人、見るからに若い、日本人美女を発見する。
話し掛けると、彼女は、ダカールのJICA(ジャイカ)つまり、国際協力事業団に知り合いがいて、セネガルの状況を見に行く、二十歳の女子大生だ。

しかもこれが、彼女にとって最初の海外旅行だという。
うーん、彼女もまた、信念があり、度胸もある、なかなか立派な女の子だね。

ただのぐーたらな世界旅行者は、話のネタを作りに行くだけの自分が、かなり恥ずかしくなる。
しかし恥ずかしがってばかりはいられない。

僕は、世間話をするようなふりをしながら、実は、ダカールに到着したときのことを考えている。
僕は、ダカールについてほとんど知識がない。

ダカールに関しては、これから飛行機の中で、持って来たガイドブックをとっとと読んで、知識を仕入れようと考えている。
ただ一つわかっているのは、ダカールの空港から町へ出るのに、一人では駄目だということ。

はじめての町に入る時、空港から一人でタクシーに乗ることは、絶対に避けなければならない旅行の大法則なのだ。
誰かといっしょにタクシーに乗って、町へ入らなければならない。

まあ、旅の一日目は、無事に町へ入って、宿を捜して落ち着ければ、それで大成功なのだからね。
ということは、僕の頭にあるのは、NGOの女性の皆さんにくっつこうか、それとも、大学生の女の子にくっつくか、そのどちらかだ。

ニコニコして話をしている世界旅行者の頭の中は、目の前の人間をどういう風に利用できるかと、そればかりを考えているのだ(あーん、おそろしい)。
NGOの人たちは、もちろんダカールのことがよくわかっているだろうし、ひょっとしたら、迎えの車が来ているかもしれない。

これは、いいね。
しかし、美人女子大生は、JICAに知り合いがいるとはいっても、基本的には、旅行者らしい。

旅行者ならば、マリに行くかもしれない。
すると、女の子といっしょにダカールからバマコの列車に乗るという、計画に使えるかもしれない。

話をすると、セネガルだけでなく、マリにも興味があるようだし。
迷っているうちに、搭乗手続きが開始され、乗り込む。

アエロフロートSU413便は、イリューシン62という旧ソビエト製の機体で、通路の両側に片側3列の座席が並んでいる。
機内に入って、押し合いへしあいしながら、自分の席10Cを捜す。

と、そこにはすでに黒人のおばさんが、ゆったりと座っている。
あれっ、と目で尋ねると、他のところへ座れと指差される。

困って振り向くと、先ほどのNGOの美女から手招きされる。
ダカール行きの二人が前から3列目の二席を取っていて、通路側の一席が空いている。

「この飛行機は自由席なのよ」とのことだ。
つまり、一応座席は指定されているが、アフリカの人たちは、早い者勝ちで席を取るので、勝手に座っていいということらしい。

1996年に東アフリカのナイロビに飛んだ時は、確か、ちゃんと指定された通りに座ったような気がする。
が、これは、きっと、西アフリカと東アフリカの違いなのだろう。

というのは、東アフリカはイギリス、ドイツ系の旧植民地が多く、西アフリカはフランスの旧植民地が多い。
つまり、ラテン系の国なので、いいかげんなんだろうさ。

ところで、世の中には飛行機オタクというのがいる。
彼らは、航空会社のシートピッチ(前後の座席の間隔)がどうだこうだとウンチクを並べたりする、ウザッタイ人たちだ。

彼らが駄目なのは、自分の経験で語らず、本や雑誌やパンフレットを読んで、わかった気になっているところだね。
つまり、現実のことは、何も知らない。

エロ本を読んで、エロビデオを見て、エロゲーをやって、セックスを語るようなものだ(まあ、オタクとはすべてそうなのだけれどね)。
彼らにありがたい情報を与えておくが、エコノミークラスのシートピッチが一番広いのは、アエロフロートだ。

実は僕らが座ったエコノミークラスの前から三席までは、前の席との間隔がものすごく広くて、足元にデイバッグを置いても悠々と足が伸ばせるくらいだった。
まあ、しかし、後ろの方へ行くと、すぐ目の前にシートの背が来るくらい狭いんだけどね。

ここでやっと、僕はLonely Planetの「WEST AFRICA」を取り出して、読み始める。
隣のNGOの女性も、フランス語の会話の復習などをはじめる。

セネガルの状況や、NGO活動などについて、話をする。
その他、日本の教育や、ヨーロッパ旅行体験談、彼女の子供の教育などに話も弾むし、なかなか、知的で魅力的な女性だ。

調子に乗って、僕が、彼女たちといっしょに、NGOの建物に泊まれないかと、聞いてみる。
しかし、彼女の組織は某宗教団体が運営していて、いろいろ制約があるらしい。

特に「お酒が飲めませんよ」とのこと。
うーん、それは困る。

困るが、無理を言えば泊めてくれそうな雰囲気だ。
彼女たちといっしょなら、確実に、安全に、今夜の宿まで確保できるわけだ。

ダカール到着は、午後4時ごろになる。
すると、まず、入国手続きをして、空港で現地通貨を入手し、見知らぬ町へタクシーで乗り付け、歩いてホテルを捜さなければならない。

だんだん暗くなる時刻だ。
これは、酒が飲めなくても、安全性を選ぶべきかな。

それに、NGOの建物に押しかけて泊るというのは、世界旅行者らしい話のネタにもなるしさ。

うーん。
ま、ダカールに着いてから考えようっと。

と考えを放棄して、ぼんやりしていると、ダカールへ到着してしまった。
海側から空港へと侵入した機体が停止すると、空港のバスに乗って、ターミナルビルに到着する。

入国審査を済ませて(ちなみに、出国航空券のチェックはなかった)、預けた荷物が出てくるのを待ちながら、頭の中は、急速に回転している。
NGOに行こうか、しかし、女子大生といっしょに行ってもいい。

NGOの人妻美女か、20歳のぴちぴち女子大生か?
これは、とても困ったね。

dakar05(2001/10/19)