世界旅行者はY嬢と共にカオサンを歩いて、旅行哲学する

『タイ・カンボジア・ベトナム駆け足旅行記(1994)』より。

注:この話は1994年の状況です。現在のカオサンはもっともっと日本人もタイ人も多くて、大発展しています。


【ニュージョーゲストハウスのレストラン(2005)】

部屋に荷物を置いて、すぐにJ&JOE(ニュージョーゲストハウス)を出る。
屋台の椅子とテーブルの置いてある細い道を、東へ少し歩くと、カオサンへの抜け道を見つけた。

他のかなり大きなゲストハウスとレストラン、バーの敷地を通り抜けて、すぐにカオサンの中央付近に出る。
バンコクに来る西洋人バックパッカーがまず最初に目指すところが、ここカオサンロードだと言われている。

全長50メートルほどだろうか、長過ぎもせず短過ぎもしない、歩いてうろつくには適度の長さだ。
ここで、カオサンとはどういうところか、簡単に説明しておこう。

少し歩くと、まず目につくのがカオサンの両側にならぶレストランだ。
コーラ一つで何時間も粘っているらしい、長期旅行者らしい白人の姿が目立つ。

端から端まで歩いても、日本人はほとんど目につかない。
しかし中央付近の旅行代理店の前に「日本人の情報交換所」と日本語の看板が出ているのを見つけた(あとで聞くと、これは何の意味もなくて、ただ日本人が待ち合わせするのに使っているらしい)。

レストランの次に目立つのが、土産物屋。
いかにもお土産用の民芸品ぽいものから、旅行用のバックパック・ディバッグ、それから白人がよくビーチで着ているようなぺらぺらしたドレスなど、一通りのものが簡単にそろう。

旅行代理店もいっぱいある。
ここの旅行代理店の営業内容を簡単に説明しておくと、まず海外旅行の切符の安売りとビザ取得代行業務がある。

これが僕がカオサンへ来た目的だ。
昔はバンコクといえば切符の安売りのメッカと言われたものだが、現在はそれほどのことはない。

日本でのオフシーズンの安売り切符は、世界のどこと比べても十分にたちうち出来る値段だ。
例えばパキスタン航空機で一緒だった佐藤氏は、バンコクで買った切符の復路を使って飛んできたとの話だったが、その値段が4万5千円だったそうだ。

僕の今回の東京からバンコクの往復切符が4万8千円なので、値段としてはほとんど違わない。
しかし、佐藤氏の切符は一年オープンで、僕の切符は60日オープン。

日本では一年オープンの安売り切符はあんまり一般的ではないので、そういう点では意味があるかもしれないね。
現在でも「バンコクは切符が安い」という幻想に取りつかれて、バンコクから切符を買って日本とバンコクの往復を続けている旅行者もいる。

僕はあんまり感心しない。
なぜなら、日本にいてバンコク行きの片道切符が残っていると、行きたくなくてもついつい片道切符を使うために旅行をしてしまうからだ。

人間というものは自己正当化が実に巧みなもので、こういう人間に限って「僕はアジアが大好きなんですよ」と言う。
実は、ただ帰りの切符を無駄にして損をするのがいやなけちくさい人間なのだが、その現実を直視する度胸がないだけなのだ。

まあ、これは僕が頭だけでそう考えていることでも、アジア旅行者を誹謗しているわけでもなんでもない。
自分で同じような経験をして反省し、また(後に出てくるが)今回の旅行でも同じような旅行者に出会ったからなのだ。

僕の経験を一つだけあげておこう。
例えば僕がナイロビに飛んだのが、アテネからナイロビでの、エジプト航空で、カイロにストップオーバー可の往復切符だった。

ところが行ってみると、ナイロビでは結構面白い切符を安く売っていたのだ。
もし復路の切符を持っていなければ、きっと少なくとも西アフリカへは足を伸ばしたことだろう。

アフリカ内をあちこちストップオーバーしてアフリカから脱出することは簡単で面白そうだった。
だが、結局持っている切符を捨てるのがもったいなくて、自分のエジプト航空の帰りの切符を使ってしまった。

そのためにアフリカでの旅行国数をぐっと増やし損なってしまったのだ。
これはいまでも後悔していて、夜中に汗をびっしょりかいて「エジプト航空の帰りのキップ〜!」と大声で叫んでしまうしまうことがよくあるらしい(僕は寝ているので、よくは知らないが・・・)。

カオサンの旅行代理店の次の役割は、タイ国内各地へのツアーだ。

自分でバンコクをあちこちうろついて、例えばバスターミナルへ自分で行って切符を予約して、また自分でバスに乗るとすると、大変な時間がかかる。
なにしろバスターミナルへ行くこと自体が一つの旅行のようなものだからだ。

今回の旅行で後に僕自身が経験することになるが、バンコクの東ターミナルからカオサンへ移動するだけで、市内バスを使って1時間半かかった(途中でバスを降りて歩かなければ2時間かかったかもしれない)。

バス待ちの時間などを考えると、これはよほどの長期滞在者でない限り簡単なことではないとわかるだろう。
そこでカオサンの旅行代理店の出番だ。

ここで予約をすればカオサンでピックアップしてくれるのだ。
さらにはビーチのバンガローの予約の問題もある。

僕の今回の旅行は雨期に当たっていて、基本的にはオフシーズンということになる。
だからビーチの宿も、値段を気にしなければ空いていた(しかし、安くて設備の整った宿はこの季節でも満員に近い)。

有名なコサムイからボートで渡った島から、更に渡った名もない(僕が忘れたのだが)小さい島に行ったフランス人に会った。
彼の話によると、雨期の現在でもほとんど満員で、乾季のシーズンになるとほとんど宿はなく、宿にあぶれた旅行者はビーチで寝ることになるという。

その点、代理店では宿を込みで予約することが出来る。
シーズン中は、是非、これをお勧めしておきたい。

もちろんこの話は、ちょっとカオサンをうろついただけで頭でストーリーをでっちあげる日本のガイドブックのレポーターとは違って、僕自身が直接経験した話・出会った外国人旅行者の体験談・「世界旅行者協会」会員の実体験に基づいているのだ。

旅行代理店の最後の役割は、空港へのミニバスを運行しているということだろうか。
代理店によっても違うが、だいたい毎時間バスが出発している。

ただし、料金が50〜60B。
この値段は、3〜4人でタクシーを借りきったのと一緒なので、友人と一緒ならばタクシーを使った方が手っ取り早い(しかし、4人でこのバスを待っている不安そうな顔をした日本人を見かけた。要領の悪い連中だ!)。

旅行代理店の説明はこれで終わり。

あとはゲストハウスだろう。
でも、これについては説明の必要はないと思う。

新しいゲストハウスが今もどんどん建設中なので、いくつあるか誰も見当がつかない。
ということは、どの宿がいいか、自分で見て確かめて決める方がいいだろう。

だいたいの旅行者は出会った人の話などで初めから目的の宿を決めているようだ。
僕が佐藤氏の話で最初から裏通りのJ&JOEに決めていたようにね。

またそうでなければ、膨大な量の部屋から一つを選ぶのは大変な仕事になる。
このほかにも、両替屋、薬屋、写真屋、入れ墨屋、本屋、などいろいろとある。

必要ならば、それはこの旅行記で順番に出てくるだろう。
とにかくカオサンにないのは、酒屋だけのように僕には思えた。

Y嬢といっしょにゆっくりと店を冷やかしながら歩いていると、たくさんある旅行代理店の一つが目の前にあった。
中に入って質問してみると:

ベトナムのビザは4ワーキングデイ(平日で4日)かかる。
料金は1150B

つまり今日が24日の水曜日なので、土曜日曜をはさんで、手にできるのは8月30日の火曜日だ。
僕の帰国は9月3日、といっても実際は2日の深夜なので、これでは話にならない。

BKK(バンコク)〜SGN(サイゴン=現ホーチミンシティ)の往復切符は6200B。
BKK〜PNH(プノンペン)往復が4200B。

カンボジアのビザが空港で取れることは、ここでも確認した。
ところで僕が知りたいのは「カンボジアでベトナムのビザが取れるかどうか、何日で取れるか」ということだ。

エージェントのおばさんは「すぐに取れる、2日で取れる」という。
だとすれば、プノンペンへ飛んで、そこでベトナムのビザを取って、ベトナムへと進むことになる。

BKK〜PNHの片道切符が2600B。

僕が片道切符で入国しようと考えていることをおばさんに言うと、彼女は別の提案をしてきた。

BKK〜PNH〜SGN〜BKKで8300B。

僕は一応興味深そうな顔をして聞いていたが、これは僕ならば絶対に買わない切符だ。
なぜなら、プノンペンからホーチミンシティまでは国境を陸路で、バスで越えるのが大きな目標だからね。

飛行機で飛んでしまうのでは、誰でも出来る、ありふれた旅行になってしまう。
それに現地で本当にビザが短期間に取れるかどうかも、実際に行ってみなければわからない。

旅行代理店の言うことを信じてはいけない。
旅行は何が起こるのかわからないのだから、片道切符で飛ぶのが原則だ。

行くとしたら、片道切符を使うことになるだろう。
もう一つ別の代理店を当たってみた。

そこでは: BKK〜PNH 往復 4150B、片道 2650B
という話で、だいたいこのレベルだとわかった。

国際電話のコレクトコールをかけられる写真屋も発見した。
料金は40B。

次は「HELLO RESTAURANT」で昼飯にした。
オランダのライセンスビール KLOSTER(大)が80B、焼き飯が35B。

どうも、ビールが高いね。
さて、どうしようか…。

今日が24日の水曜日、明日飛べば明日の午後にはプノンペンに着ける。
そうすれば、ベトナムのビザの受付は多分午前中だろうから、その翌日の金曜日に申請して、月曜日には受け取れるだろう。

しかし、一日遅れて金曜日に飛べば、申請が月曜日になり、2日かかるというのが正しいとしても、ビザを手にするのは31日になるのだ。
僕は2日の深夜にバンコクを発つのだから、これはかなりきつい日程だ。

しかも、僕の今回の旅行は気軽な一人旅ではない。
Y嬢にバンコクを案内するという目的も、一応あることはある。

それに僕の帰りの予約を再確認して、Y嬢の予約をいれてもらわなければならない。
む〜ん。

考えても無駄だ。
行動することだ!

まず、PIA(パキスタン航空)のオフィスへ行こう。
もし帰国便を変更できるのなら、少し帰国を遅らせてもいい。

海外に出てしまえば、帰国が遅れる言い訳はいくらでもできるものだ。
それに、どうせならラオスまで足を伸ばして、インドシナを一丁あがりにしておきたい。

PIAのオフィスがパッポンの以前の場所から移動していないのは確認してあった。
行くついでに、Y嬢にチャオプラヤ川を見せてあげよう。

ビールをぐいと飲みほす。
僕はY嬢を誘い、プラ・ピンクラオ橋のたもとにある船着き場へと向かった。

http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080410#p2