新鑑真号で黄浦江へ入って、両替をして、浦江飯店へチェックインして、すぐに上海駅へ》

【上海のテレビ塔をバックにして】
上海に到着する朝は、新鑑真号が東シナ海から揚子江へ入るところを見たいという意識があったのだろう、朝の4時半ごろに目が覚めてしまった。
すぐにデッキに出た。
が、朝もやの中をゆっくりと進む新鑑真号は、もうとっくに揚子江へと入っていた。
河の両側には工場地帯が広がりはじめ、船は続いて上海の中央を流れる黄浦江へとはいる。
入国カードと検疫の書類を記入し、バックパックをまとめて船を下りる準備をして、ロビーにでる。
昨日から読んでいた、「犬が星見た(武田百合子著・中公文庫)」を読み終えて、テレビの下の小さな本棚に置く。

【上海の空気はかなり汚れているのかも】
昨日話をした旅行者の皆さんが、「世界旅行者さんと一緒に写真を取りたーい♪」と言ってきた。
特別に無料で写真に納まってあげる。
僕も写真を取ろうと思うが、船はすでに上海の中心部にいる。
デッキで取ったほうがいいだろうと外に出る。

【黄浦江を遡り、上海国際岸壁に到着寸前】
以前も書いたと思うが、僕は風景の中に自分が入っている写真を撮るのが目的なんだ。
奇妙な形をした上海の有名なテレビ塔が目の前に見えるので、そのテレビ塔をバックに一枚。
船の前方に上海名物のバンドが見えるが、これも無理に背景にして、写真を撮ってもらった。
船は午前8時には、バンド近くの国際船岸壁に接岸した。
荷物を持った乗客は、船の出口にバックパックを背にして並ぶ。
船内ビザを申し込んでいた人たちが、このときになって別に呼び出されて、ビザを交付されるようだ。
旅行者の間でなんとなくグループが出来ていたが、船内ビザの人たちは下船が遅れて別々になってしまった。
とはいっても、船で上海に着く日本人旅行者の行き先は一つなのだから、すぐにまた会える。
だって、みんなが行くホテルは「浦江飯店(Pujiang Hotel)」に決まってるんだからね。
もちろんまだ午前中なのだから、もっと気のきいた、行動力のある、そして中国語も話せる旅行者ならば、すぐに鉄道やバスで移動してしまうこともあるかもしれないけどさ。
船のタラップを降りると、マイクロバスが一台待っていて、それが乗客をすぐ近くのビルディングへ運んでいる。
が、歩いてもすぐなので、バックパックを背にして、ニ三人連れ立って、歩いていく。
ビルの中に入国管理があるが、パスポートをチェックしただけで、何の質問もなく、簡単に済む。
続いて税関もあるが、ここもノーチェックで過ぎる。
入国スタンプをもらい、税関を通り過ぎると、突き当たったところに中国銀行の両替窓口がある。
中国旅行に慣れた緑靴好男くんが、すぐに並んで両替をする。
僕は彼の後に続いて、両替をするために並ぶが、いくら両替するか、そこにちょっと迷いがあった。
というのは、とにかく今日明日中に上海から昆明への鉄道か、飛行機の切符を購入するつもりだ。
船内で「Lonely Planet」をあちこち調べて、「飛行機の料金が1860元」と書いてあるのは見つけている。
一元はだいたい14円程度と考えて、1860元は2万6千円程度だ。
古いガイドブックに記載されているこの値段は1998年以前のもので、おそらく5年程度過去の料金。
また近年中国の景気がいいわけだから、物価上昇も激しいだろう。
それを考えに入れると、航空料金はもっと高くなっている可能性もある。
さらに宿代や食事代、上海の観光費用なども考えなければならない。
ただ、中国の両替でわかりやすいのは、(一部噂に聞く闇両替を除いては)どの銀行で両替してもレートは一緒だということ。
だから、到着したばかりの両替だからと、他のどこかの国のように、無理に小額に留める意味はない。
また、旅で一番問題なのは、「現金がない」こと。
なので、出来るだけ余裕を持った金額を両替しておいた方がいい。
そこで、一気に5万円を中国元に両替してしまおうかと考える。
しかし、もし、鉄道で移動して、案外と安く旅行できてしまったら、現金を多く持ちすぎてしまうのではないか…、と迷いが出てくる。
ここで「キリがいいから5万円替えてしまおう!」と素直に思えたら立派だ。
迷いなくすんなり両替できる人は、日本の社会生活でも思い切りがよくて、決断力があり、きっと人生で成功するタイプの人だと思う。
ただ、世界旅行者は、あれこれあれこれ考えて考えて疲れてしまうくらい、神経の細い、心配性の人間なんだよ。
だから、人生で成功してないんだけどさ…(とほほ)。
ただ、僕は、決断できないときの決断の仕方(?)は知っている。
つまり、「いま5万円両替すれば充分だが、さしあたり3万円でも何とかなるかもしれない、それなら、4万円両替する!」と、「足して二で割る」行動をとったわけだ。
これってまさに日本人的な行動。
普段日本人を批判している割に日本的だよなー(ふんにゃ〜)と思う。
僕の日本人批判はもちろん自分自身をも対象にしているわけだから、それなりに筋が通っているともいえるよね。
人間について考えるなら、自分について考えればいいってことだけどさ。
というわけで、日本円のトラベラーズチェックを4万円分、ズバッと両替する。
と、2792元3角になる(1元=約14円)。
両替をして出口へ向かおうとすると、「浦江飯店へ行きますか?」と浦江飯店の客引きの中国人から声をかけられる。
マイクロバスで浦江飯店へ連れて行くそうなので、他の乗客をすこし待つ。
両替の列は長く、旅行者の数は多い。
遅れて来た人たちはここでの両替を諦めたようだ。
旅行者が適当に集まってきて、マイクロバスへ乗り込む。
このマイクロバスもなかなか動かなかったが、最後に白人のカップルが乗り込むとすぐに動き出した。
マイクロバスは、多分大きな道を通るために回り道をしたのだろう。
船着場から浦江飯店までは歩いてもすぐという情報とは違って、この古いホテルの前に到着するのに時間がかかった。
いかにも古ぼけた、しかし歴史の感じられる建物の前で止まる。
なるほど、これが、インターネットで見たことのある、浦江飯店だ。

【浦江飯店】
ホテルのロビーに入ると、さすが昔は一流ホテルだったらしい天井の高さで、堂々とした受付カウンターがある。
受付の女性の雰囲気も、横にある両替カウンターも、とてもバックパッカー宿とは思えない雰囲気だ。
浦江飯店のドミトリーは均一料金の55元。
しかし、みんなが相部屋で泊まるホテルに、一人で泊まるのも話のネタになるよね。
と、念のために一部屋の値段を聞く。
常に一般旅行者とは違う、一歩踏み込んだ考え方をする、それが世界旅行者先生なんだよ。
だから浦江飯店の一部屋料金の実際の話は、これが世界で最初に公表される。
浦江飯店の(ダブルルーム一部屋の値段で)330元、つまり約4600円。
ただ、上海で一泊5000円弱は、これは、バックパッカーとしてはいくらなんでも払えないかな。
普通の旅行者ならば、これだけのホテルに泊まって1泊5千円なら、悪くないと思うよ。
新鑑真号で知り合ったカップルが、一晩中腰が抜けるほど思い切りセックスを楽しみたいというのなら、古い格式のあるホテルで一生の想い出が作れる。
その意味では、非常に安いと思うので、この貴重な情報を参考にして、是非ご利用ください。
僕が指定されたのは、315号室の4番ベッドだ。
このドミトリーの部屋に行く。
これはもともと豪華なホテルのスイートルームらしいものにほとんど手を加えずに、ただベッドをいれてあるだけの状態だ。
だから、ドミトリー用の大部屋というのではなくて、315号室自体がいくつもの部屋に別れている。
バスルームにはトイレと洗面台があるだけ。
このバスルームの大きい事といったら、バスルームだけで日本のワンルームマンションくらいの大きさがあるくらいだ。
僕の横のベッドには、ドイツ人らしい白人が荷物を広げていた。
部屋は雑然としていて、いわゆる旅行者宿のように、気軽に挨拶を交わす感じでもない。
僕は実は、今度の旅は「旅行者の観察」も目的。
なので、この有名な浦江飯店にきっと巣食っているだろうタイプの、旅行自慢の日本人長期旅行者と出会うのを楽しみにしていた。
だが、この雰囲気では無理だね…。
でもまあ、今夜のベッドを確保しただけいいとしよう。
浦江飯店のドミトリーの雰囲気では、そんなに長居するところではないよ。
とにかくホテルを見て回ろうと、まず一階のロビーに降りると、船で知り合った旅行者のみなさんと再会する。
「西本さん、僕らこれから、列車の切符を買いに上海駅へ行くところですが、一緒に行きますか?」と声がかかる。
ま、それもアリでしょう。
なぜって僕は、旅に出たら、その流れのままに身を任せるんだから。
中国の列車の切符といえば、僕が北京の京華飯店に泊まっていたとき、北京西駅の外国人窓口へ切符を買いに行った。
しかし、北京西駅へ直接行ったら、まったく切符が入手できなかった経験がある。
そのときは、ホテルの旅行代理店に頼んだら、ちょっと手数料を取られたが、あっけなく目的の切符を入手できた。
だから、僕の心の中では、「今回も、自分でわざわざ切符を買いに行っても無理じゃないかなー。だったら最初から、旅行代理店に頼もう!」という考えがあるんだ。
でも、声をかけられたら、流れとしては付いて行くことになるだろうさ。
「僕も上海駅へ一緒に行くよ」と返事をする。
まあ、上海駅の見学だと思えばいい。
切符を売っているから目的の切符を簡単に購入できると思うようでは、世界旅行者ではない。
中国では、切符は切符売り場にはなくて、とっくに旅行代理店に流されているものなんだよ。
しかしもちろん、僕が上海駅へ行けば、そこでは、思いがけない出来事が僕を待っていることになるわけだよね。
だって、僕は、世界旅行者先生様なのだから…。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20081030
(「世界旅行者・海外説教旅」028)