《長距離寝台列車、上海→昆明、K79次「加1車」の謎》

【昆明行きの列車に乗るためにバンドを歩いて、地下鉄駅へ、そして上海駅へ】
バンドを歩いて浦江飯店に戻っても、ホテルに遅れて到着したために会議室に男女まとめて放り込まれた人たちを観察したりした。
浦江飯店を探検したり、いろいろ面白い話がある。
ただ、いまそれを書くと、この旅行記を書き終わるのに10年くらいかかる。
ここらでちょっとはしょることを許していただきたい。
ま、ご希望があれば、浦江飯店が現在どう使われているか、浦江飯店のバー、浦江飯店のインターネット、浦江飯店の昔ながらのホールなどについて話すことも出来ますけどね。
正直、僕も海外旅行経験は長いのだから、ずいぶんとドミトリーに泊まったことはある。
だが、浦江飯店のドミはどうも雰囲気になじめなかった。
僕の泊まっていた315号室では、宿泊者が夜になってもなかなか戻ってこず、電気を遅くまでつけたままで、気分よく眠れない。
旅行者というものは、とにかく朝早く動き出すのだが、ここの連中はかなりの夜更かしのようだ。
昆明への出発となる翌朝も、僕は5時に起きて準備を始めたのだが、朝の9時になっても誰も起きださないのだ…。
明るくなっても誰も起きださない部屋には居場所がないので、音を立てないようにバックパックをまとめて部屋に置いて、ロビーに下りる。
また船で一緒だった昨日の旅行者と再会する。
他の日本人に会わないのが不思議だ。
昨日新鑑真号が日本から着いたばかりなのだから、新鑑真号で知り合った人といつも会うのは当然かもしれない。
でも、他にも日本人はいるはずなのだから、いままで見たことのない日本人と会わないのが不思議だ。
正直、僕が浦江飯店に泊まったのは、「浦江飯店の主」「旅のベテラン」を自称する日本人旅行者に会うためでもあったんだよ。
でも、ここの長期宿泊者というのは、ひょっとしたら、普通の時間に僕と出会わない、変な時間帯に、予想のつかないことをしているのかもしれないね。
また出会った日本人旅行者を誘って、二人で近くの庶民的な食堂へ行く。
朝食のおかゆを食べるとそれが1人2元(30円)、これを僕は、気前よくおごってあげた。
上海駅を見に行きたいという人たち4人と10時にロビーで待ち合わせしていたので、一緒にホテルを出る。
タクシーで行けばすぐだが、それでは面白くない。
上海駅へは地下鉄を乗り継いでいくことにして、バンドから南京東路を歩いて、河南中路駅で地下鉄2号線に乗る。
人民公園駅で地下鉄を1号線に乗り換えて、上海駅へはすぐだった。
上海駅の入り口、大きな階段の下でセキュリティチェックを受けて、階段を登る。
広い通路があって、その両側に待合室と商店がずらーっと並んでいる。
思い返せば、北京西駅と同じ形式だ。
これから類推すると、中国の大きな駅は、どうやら同じ構造で出来ているようだね。
つまり、鉄道線路の上に横切るように橋を架け、そこに通路を設けて、通路の両側に巨大な待合室がその線路ごとに設置されている。
待合室の入り口と入り口の間には、たくさんの商店が並んでいる。
僕はこの構造を見取って、見送りに来てくれた(というか上海駅見学でやってきた)日本人旅行者諸君とお別れする。
列車に乗り込む前に、僕は準備するものがいろいろあったからだ。
まず、中国の長距離列車に乗るときの必需品として、なによりもコップが必要だ。
というのは、中国の列車には必ず湯沸かし器がくっついていて、いつでも熱いお湯が準備されえている。
ただ、それを飲むための容器は自分で用意しなければならないからね。
通路の商店を見て歩くと、ガラス製のお茶用の容器もある。
なかなか面白い構造なのだが、特にお茶を飲む気もないし、荷物になるので購入しないことに決定。
普通の蓋つきのステンレスコップを買った。
あと、日本のものに比べたら倍はありそうな大きなカップラーメンを二つ。
列車内での弁当販売があるのは知っていたが、ひょっとして買えなかったときの予備用だ。
さらに、ミネラルウォーターボトル、サントリーの缶ビールを2本ずつ、それにチョコレート。
人間、水とチョコレートさえあれば、何とか生きていけるものだからね。
広い待合室には、通路とは反対側の端に列車へのゲートがあって、その前にプラスチックの椅子がずらっと並んでいて、そこに乗客が待っている。
いつものように、早く着きすぎてしまったので、何もすることがなく、文庫本を読みながら、つい買ったばかりのビールを飲んでしまう。
すると必然的にトイレに行くわけだが、待合室のトイレに入ると、そこで中国人民の皆さんが食事をしている。
「トイレで食事をするなんて…!」
しかし、実はトイレには、熱湯が出る設備がある。
そこでお茶を飲んだり、ラーメンを作ったりするようになっているわけだ。
つまり、中国の鉄道駅の待合室には、トイレ兼キッチンが付いているわけだね。
これはとても便利なので、日本でも見習って欲しいね(!?)。
座って待っていると、いつしか動きが起こり、どどっと人が流れ出す。
僕も流れに乗って、ゲートを通り、階段を下りてプラットホームへ出る。
実は、ちょっと不安があった。
僕の切符は確かにK79次なのだが、「加1車」と印字してあるのだ。
ところが、上の3号待合室の表示では、「4-10号車」とあって、反対側の待合室には「11−16号車」とある。
つまり、これをそのまま読めば、K79次は4号車から16号車までしかないということにならないかな。
実は、僕は、中国をまったく信じていない。
例えば、北京の有名な故宮の入り口の切符売り場で、博物館も見ることが出来る通し券を50元出して購入したところ、手渡されたのは30元の入場券だったことがある。
これはうっかり間違えたのではなくて、わざとやっていたようだ。
僕がすぐに気がついて、切符売り場の窓口で券を見せて違うというジェスチャーをしただけで、すぐに50元の券に換えてくれたからね。
また、故宮手前のミネラルウォーター(ほとんど凍っているのがちょっと珍しい)を、一緒に歩いていた日本人旅行者が購入したら、ニコニコしたおばさんに一本5元取られた。
僕がその売り場をよく見ると、きちんと大きく「4元」と表示してあって、僕が指で4と出したら、ニコニコしたまま4元で売ってくれたこともある。
ということは、この「加1車」にも、何か引っ掛けがあるのかしらん?
普通のちゃんとした列車の他に、ぼろぼろの荷車や台車がくっついていたりしないのかしら。
うーん、ただそれはもう、仕方ないと思って考えないことにしていた。
だって、世界旅行者は、神に選ばれ、神に認められ、神に愛されている(はずだ)。
だからひょっとして「加1車」とは、特別豪華列車なのかも知れないからだ。
そして、プラットホームを歩いて行くと、目の前にその「加1車」が出現した。
そ、そして、それは、なんと…。
今まで誰も書いたことのない、恐るべき「加1車」の謎は、次回解き明かされることであろう。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20071205
(「世界旅行者・海外説教旅」032)