《開遠大酒店から開遠客運南駅へ行って、河口への切符を買って、戻ってチェックインする》

【開遠大酒店とその隣がバスターミナル、手前にタクシー】
開遠のバスターミナルの正面は、ひろい駐車場になっているが、そこもがらんとしている。
何をしたらいいかわからないまま、ボーッとして、とにかくバスターミナル正面から出て、振り返る。
大きなバスターミナルだけれど、バスの本数がこんなに少ないとは驚きだね。
不思議なくらい人が見えないし…。
バスターミナルの向かって右側には高層ビルがくっついて建っている。
そのビルの正面の文字を読むと、「開遠大酒店」。
酒店とは、中国ではホテルのことだ。
つまりバスターミナルに高層ホテルが併設されている。
問題なのは、こちらにもほとんど人影が見えないところ。
バックパックを背負ったまま、僕は考える。
開遠には、この長距離バスターミナルの他に、南駅というバスターミナルがあるらしい。
しかし、そのバスターミナルがどこにあるかわからない。
僕は、地図もなく、言葉も通じない見知らぬ中国奥地の町に、一人放り出されている。
この時点で午後3時を過ぎているのだから、冷静に考えると、これからさらに移動をするのは無理だ。
開遠で一泊するしかない。
宿を決めて、バックパックを降ろして、それから明日のバスの切符を手配することになる。
南駅というところに、河口行きのバスがあるらしい(しかし、本当にあるかどうか、それはわからない)。
だから、南駅へ行って、バスがあるなら、明日のバスの切符を買ってしまえばいい。
もし、(世の中も、旅も、思いがけないことが起きるものだから)河口へのバスに乗れないなら、とっとと昆明へ戻って出直すことにしよう。
そう決断して、僕は目の前の開遠大酒店の大きな扉を開いて、入っていった。
かなり大規模なホテルなので、英語のしゃべれる人間がいるかもしれないと思ったのが一つ。
もう一つはもちろん、部屋の値段を聞きたかったからだよ。
ホテルを入ると、がらんとした大きなホールで、入り口の右側には土産物屋もある。
立派なホテルだが、客の姿も、従業員の姿も、見えない。
幽霊ホテルのような感じだね。
立派なレセプションにぽつんと立つ女の子を見つけて話しかけてみると、英語が通じないのがわかる。
部屋については、レセプションの前にボードがあって、部屋の写真と値段がわかりやすいように表示してある。
その部屋のタイプと値段は、いかにも安そうな部屋から、世界共通のシティホテル並みの雰囲気の(写真の)部屋まで、いろいろあるようだ。
バストイレつきのツインの部屋だと、140元、120元、70元、という値段がある。
もっと安いドミトリーの部屋もあるようだ(が、言葉が通じないのではっきりとはわからない)。

【開遠大酒店の部屋】
この雰囲気ならば、いざとなればここに泊まればいいと、一応安心する。
旅人はその夜寝るベッドの当てさえあれば、不安の半分は解決しているんだからね。
「河口、南駅?」とノートに書いて示すと、ちょっと首をかしげて、あっさり「TAXI!」という返事が戻る。
なるほど、もちろんタクシーに乗れば大丈夫だ。
しかしその料金は?
右手の親指と人差し指でお金を数える真似をすると、レセプションの女性は指を三本出す。
つまり、タクシー代は南駅まで三元と予想できる。
僕はホテルを跳び出して、バスターミナルの前を通りかかったタクシーを呼び止める。
運転手にノートを広げて、「南駅」と書いてあるのを見せて、三本指を出すと、運転手が乗れと合図をする。
これで、南駅までのタクシー料金が三元で交渉成立したわけだ。
バックパックはひざの上に載せる。
開遠大酒店に泊まると決めて、部屋を取って、バックパックを置いて、南駅へ行けば身軽だ。
しかし、開遠という町が、どういうところかまださっぱりわかっていない。
それに、バスターミナルというのは、旅の基本常識として、町のど真ん中にはないものなんだ。
これは、鉄道駅もそうなんだけどね。
昔からある町では、まず町が存在していて、鉄道駅は必ず町の中心から外れたところに作られる。
バスターミナルなんかになると、そのずっと後に、道路が発達してできるものだから、もっとさらに中心から離れるものだ。
開遠に中心地、繁華街がもしあるとしたら、それはこのバスターミナルから離れたところのはず。
そこにはもっといいホテルもあるだろう、ってことね。
明日のバスが出るという南駅の付近にだって、ホテルがあるかもしれない。
すると当然、そちらのホテルに泊まったほうが楽だからね。
とにかく、いまの段階では、バックパックを持って移動した方が賢いと考えたってわけだ。
タクシーは、たらたらと走り、ちょっとにぎやかそうな派手な四つ角を過ぎて、またさびしい通りを抜ける。
鉄道線路を越えたと思ったら、すぐに「開遠客運南駅」と(中国語の文字で)書かれた4階建て程度のバスターミナルが見えてきた。
こちらの方が、さっきの長距離バスターミナルよりも、人が多く、雑然としていて、表にはタクシーがたくさん停まっている。
つまり、こちらの方が、メインのバスターミナルの感じだよ。
バスターミナルに入って、壁の時刻表を見ると、確かに河口へのバスが存在する。
その時刻表では、6:00,6:30,7:30,8:30,10:00となっている。
昆明で計算したところでは、開遠から河口まで8時間かかるはず。
だから、午前6時に出るなら到着が午後2時、午前10時に出ると午後の6時。
なるほど、動きやすい時間帯にバスは走っているようだ。
午前6時台はちょっち早すぎるかもしれないので、7時半出発のバスに予約を入れようと考える。
ノートに「明天 7:30 班次 418」とかいて窓口に差し出す。
この「班次」とは、バスの番号みたいで、時刻表にあったから、書いたんだけどね。
すると、窓口の女性は「そのバスはない」というジェスチャーをする。
なんとなく午前8時半のバスの切符を押し付けられて、買うことになった。
でも、これなら、8時間走るとしても、河口に着く時間が午後4時半だから、8月の北半球としてはまだまだ十分に明るい。
途中の景色も楽しめるし、河口でホテルを見つけた後、町を見物する時間もあるだろうさ。
このバスには誰も予約を入れてなかったようで、シートナンバー(座号)が一番になっている。
普通に考えれば、運転手の横か、直後の席になることだろう。
ま、もちろん、中国の辺鄙な田舎町でバスに予約の概念があると考えた僕が完全なバカだった。
これは、明日になればわかるんだけどね。
バスの料金が30.5元、プラス保険料が1元。
この保険の証書を読むと、保険料が一元(15円)で、バスで死んだ時にはなんと一万元もらえるらしいよ。
一万元といえば、15万円だ。
で、一万人に一人も事故で死ぬはずなんか絶対にないのだから、保険会社はボロ儲けだよね。
これが、中国の資本家が共産党幹部と組んだ、無理矢理ボッタクリのやり方なんだろう。
ホント、政治家と業者がつるんでうまくやってるなーと、ホント感動してしまうよ(涙)。
明朝8時半出発のバスの切符を手に入れてしまえば、これで一安心。
最初のつもりとはちょっと違ってたが、開遠には無事に来たのだし、明日は河口へ明るいうちに到着できるはずだ。
すると、全く問題はない。
僕は、南駅のビルを出て、目の前にタクシーはたくさんあるのに、わざわざ歩くことにした。
だって、タクシーで来たときの雰囲気でも、たいした距離ではなかった。
町も見てみたかったからね。
ゆっくりと、開遠大酒店まで歩く。
その意味は、もちろん、開遠大酒店に泊まるつもりなんだ。
僕が考えたのは、南駅がもっと遠かったならば、長距離バスターミナルとは別のところにホテルを見つけた方がよかった。
でも、たいした距離ではなかったので、さっきのターミナル横の開遠大酒店に宿を取って問題はないってことね。
これが基本的な考えなんだけれども、もちろんもっと近いところで居心地のいいホテルが見つかれば、そちらの方がいいという気持ちもある。
開遠大酒店に戻る道すがら、適当なホテルを見つけては、入っていって、値段やなんかを聞いてみた。
ただ、普通のホテルは外国人を泊めたくないようで、門前払いをされちゃったけどね。
中国のホテルによくあるんだけれども、なんとなくけばけばしすぎて、感覚が合わないってことかな。
僕の心の中では、開遠大酒店のあのがらんとした感覚が、なぜかとても気に入っていたんだ。
歩いても、南駅から開遠大酒店まで、たらたらあちこちホテルをチェックしながら歩いて、30分程度だったね。
スタスタ歩けば、20分で行けるだろう。
開遠大酒店の高層階のツインルームを取り、バックパックを降ろして、部屋のクーラーをガンガンかける。
この部屋は一見、ちゃんとしたシティホテルの部屋のようだが、かなりいい加減なつくりになっている。
それはまた書くことにして、さて、せっかくですから、まだ明るいことだし、開遠の町へ歩き出しましょうかね。
(「世界旅行者・海外説教旅」#49)