《国境を越えてラオカイへ入ると、旅行者集団が世界旅行者を待っていた》

【中越国境をラオカイから見る】
河口から橋を渡ったベトナム側の入国管理事務所のパスポートを待つところへ行ったら、「西本さーん!」と声をかけられる。
さて誰だろうか…。
世界中を旅してきた世界旅行者みどりのくつした(みどくつさん/みど先生)は、もちろん世界中でいろんな人に出会っている。
そして、旅先で会った人と思いがけないところで再会することがよくある。
例えば、ロサンジェルスの「ホテル加宝」で出会って、僕がグアテマラへ送り出した「ナナちゃん」。
彼女からは、地下鉄日比谷線の霞ヶ関駅で声をかけられたっけ。
また、やはりロサンジェルスの「ホテル加宝」で出会って、僕がアンティグアへ送り出した別の女の子。
彼女には、芝増上寺境内で声をかけられたこともあったね。
でも、一番多いのは同じ旅の途中で出会った人と、また会ってしまうことだ。
旅行のルートというものはほとんど決まっているから、一つの旅の途中で会った人と、また会うことも不思議ではないよ。
例えば、南米を旅していた時は、ロサンジェルスで知り合った後藤君と、ペルーのクスコでも、チリのサンチャゴでも、はては、ブエノスアイレスの日本文化会館でも本当に偶然再会したものだ。
一度会って、別れて、また再会したら、とてもうれしくて、喜びが倍になるよね。
人が本当に強く願えば、なんでもかなうものなのだよ。
今度の旅で僕が再会したいと強く思うのは、新鑑真号で会って、上海で小雨の中を一緒にタクシーに乗ったキャミソール姿が眩しい「キャミ子さん」だ。
で、キャミ子さんと再会したなら、一緒に旅をして、一緒のホテルへ泊まり、いろいろあって、いずれは結婚してもいいかな、と考えていた。
だから、キャミ子さんとの再会を強く願って、声のするほうを見ると、肥った男性の汗ばんだ顔が見える。
キャミ子さんじゃないのか…。
しかし、この肥った男性は誰だろう。
もちろん、この旅行記を注意深く読んでいる人は、とっくにわかっていると思う。
僕がここで再会したのは、昆明で別れたばかりの「亜瀬尾覚象(あせお・かくぞう)」君だよ。
しかし、亜瀬尾君は他の旅行者といっしょだ。
亜瀬尾君の他に、髪を金色に染めた日本人男性、頭に黒いバンダナを巻いた男の子、それと日本人の女の子がいる。
この日本女性は、バンダナを巻いた男の子とカップルのようだ。
それから、長身の白人女性が一緒にいる。
話を聞くと、みんなはただ国境のゲートが開いた時に一緒に中国を出国して、同時にベトナムへ入国したのだとか。
確かに、国境というところは、旅行者が必ず通るので、一番人が集まる場所なんだよね。
ベトナムの入国事務所の中では、旅行者のパスポートをまとめてスタンプを押している雰囲気で、どうやら彼らと同時に受け取れるようだ。
これは正直な話、ラッキーだよ。
他の旅行者と一緒に行動できるのだからね。
その待っている間、互いの旅の話、旅行情報の交換、世間話をして時間を潰す。
僕が大理行きを勧めた亜瀬尾くんは、一応大理に行ったのだとか。
一日だけ大理に居たが、たいして面白いとも思わず、そこで金髪の男の子と会って、一緒にベトナムへ来ることにしたという。
その金髪君(面倒なので、金髪君と呼ぶことにする)は、日本の大学生で、バイトで金を貯めて、休学して旅に出たんだとか。
これからアジアを中心に回るらしい。
男女のカップルは、北京の大学に留学中で、夏休みに旅に出ている。
彼らはベトナムへはちょっと入っただけで、すぐにまた中国へ戻る計画だ。
白人女性に声をかけると、名前はミミと呼んでくれ、という。
オランダ人女性で、これから、ベトナム、カンボジア、タイと旅をする予定。
僕は旅行者の皆さんとにこやかに雑談をしながら、いつものようにコバンザメ式旅行法の適用を考えている。
つまり、僕はサパへ行くつもりなので、もちろんサパへ行く人間を捕まえて、一緒に行動するつもりなんだ。
とにかく、新しい国に入ったら、誰かと一緒に行動した方が安全だからね。
「ねーみんな、もちろんサパへ行くんでしょ♪」と、ニコニコして声をかける。
日本人の留学生カップルはこのまますぐに、鉄道でハノイへ行くという。
ミミは、さすがヨーロッパ人らしく(ヨーロッパ人はとにかく山が好きなんだよね)サパ行きの予定だ。
金髪君もサパへ行く。
ところが、亜瀬尾くんはちょっと迷っていたが、ハノイへ行くという。
亜瀬尾くんは、昆明で僕に話したように、旅があんまり好きじゃなくなった。
だからここらへんで寄り道をせずに、とっとと進みたいらしいんだ。
それはそれでいいさ。
ミミと金髪君と僕がサパへ行くとすれば、三人だから、これならある程度心丈夫だしね。
パスポートが配られて、そのベトナム入国のスタンプを確認して、入国管理事務所の外に出る。
目の前にさっき歩いてきた国境の橋が見える。
ベトナム側の大きな赤いゲートをバックに写真を取ってもらう。
国境によっては撮影が禁止されているところもあるが、ここは町が迫っているので、誰も気にしない雰囲気だ。
みんなでわいわい言いながら歩きだす。
ま、早い話、ラオカイ(老開)の地理のことを言い合ってるわけなんだけどね。
中国側の河口とベトナム側のラオカイの間の国境の橋が架かる川は、紅河の支流だ。
本流の紅河は二つの町の西側を南北に流れている。
河口からベトナム側を見た時に、右手に(西側に)紅河に架かる橋を見た。
サパは山のある方角、つまり西のほうにあるから、多分あの橋を渡った方向だろうと見当をつける。
ラオカイの鉄道駅は、もちろん鉄道線路が伸びている方向にあるはずだ。
僕の「South-East Asia on a shoestring」のラオカイの項目を読むと、ラオカイの地図はないが、「鉄道駅は国境から3km」と書いてある。
3kmと言えば、けっこうな距離だよ。
本にはバイクタクシー(motorbike)が50セントで乗せてってくれると書いてある。
が、そのバイクが見当たらない。
しかも、国境の町なのに、なんとなく人通りが少ない。
不思議だ…。
ところで、両替する場所はどこにあるのだろう?
それも、周囲に見当たらない。
建物は見えるが、その扉が閉じていて、活動が見えない。
おかしいな…。
旅行者が陸路の国境を越えれば、両替屋なり客引きなりが群がってくるものだが…。
いや確かに、中国側の入国管理事務所のところでは、ベトナムドンを中国元に両替しますよと、声をかけられたのだが…。
誰かが「今日は日曜日ですから、休みなんですかねー」と言う。
なるほど、旅で曜日の観念がなくなっていたが、今日は日曜日だよ。
ということは、ひょっとしたら、銀行が閉まっていて、お金の両替ができないんじゃないかな。
いやもちろん、小額のドル紙幣はあるから、何とかなるだろうが…。
うーん、でも、これからどうしたらいいんだろう。
ま、右手に見えた橋のたもとまで歩いてみましょうか。
と僕が提案する。
そうして、日本人5人と、オランダ人1人の6人は、橋の方向へぞろぞろと歩き出した。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080814
(「世界旅行者・海外説教旅」#56)