上海〜バンコク旅行記(2002)より、第63話 《怪しいガイド、がたがた鉄道、冷房なしの一等車、ハノイ駅に朝4時に到着》

【ハノイ行きの夜行寝台列車は午後7時にラオカイ鉄道駅を出発した】
列車に乗り込んで、コンパートメントに収まる。
日本人3人がいるところへ、ベトナム人が入ってきた。

僕が挨拶をして、英語で会話を始める。
彼の名前は「ハン」さん、職業はガイド、年齢は24歳。

彼は、ハノイからサパへ欧米人のツアー客を運んできた。
いまはサパでの仕事が終わって、1人でハノイへ戻るところだそうだ。

僕は「フランス人の観光客はうるさいでしょ」と聞いてみる。
世界中で「フランス人観光客ほど、わずらわしいものはない」という定評がある。

フランス人は個性的で自己主張が強いので、ガイドは大変なのだ。
これは、日本でもそうだし、中国でもそうだ。

日本のことは、一応僕はガイドの資格も持っているので、ガイド仲間から情報を入れている。
中国のことは、柳園駅(現在は敦煌駅と名前が変わったとか)からトルファンの軟臥コンパートメントの中で、中国人ガイドさんに確認した。

フランス人観光客の話を出したのは、ベトナムが旧フランス領だったから。
また、僕が同じく旧フランス領のラオスへいったとき、フランス人観光客が多かったからなんだけどね。

僕が旅先で外国人に話をする時には、その言葉の一つ一つの裏側に、膨大な経験と知識が詰まっている。
しかも外国人が喜ぶような、外国人が興味を持つような、日本のエピソードを持っている。

だから、このガイドさんとの話もかなり盛り上がった(僕が盛り上げた)。
問題なのは、金髪くんと亜瀬尾くんは、そんなに英語がしゃべれないってこと。

日本人は日本語でも、ほとんど中身のある話はしていない。
ところが日本語というものは、そういうあいまいな、ぼんやりしたものだ。

中身がなくても日本語の会話は、一応成立してしまう。
というのは、日本人は言葉を交換してさえいれば、会話をしたと誤解しているからだ。

日本人の言葉とは、ただ雰囲気を作るだけの機能しかない。
論理的理知的な積み重ねができない言語なんだね。

だから、日本語をそのまま英語にすると、中身がないのがバレバレになってしまう(涙)。
実は、「日本人が英語をしゃべれないのは、英語で語る内容がないから」だ。

コンパートメントの中で、ハンさんを含めて話をしようとすれば、当然英語を使う。
ところが僕の他の日本人2人は英語を使うことに慣れていない。

日本人がある程度英語が話せて、英語で話す内容を持っていたならば(知的ならば)、4人で冗談を言いながら盛り上がったかも。
でもそういう状況はまずありえない。

例えば、僕がモロッコのタンジェからカサブランカへ移動した列車のコンパートメント。
このときも、同じコンパートメントに僕と日本人学生が2人いた。

そこに、モロッコ人のおばさんが入ってきて、最初は英語で、続いてフランス語で会話が始まる。
僕はフランス語で冗談を言ったりして、結構盛り上げた。

しかしそうなると、日本人旅行者2人がついて来れなくて、微妙な感じになってしまったんだよ。
もちろん、普通の日本人旅行者のように、日本人だけで固まって、外国語を話さなければいいんだけどね。

面白そうな外国人がいたら話しかけて冗談を言って話を盛り上げるのが僕の性格なんだよ。
ただそれを日本人旅行者が一緒にいるときにやると、日本人旅行者はついて来れなくて、イジケてしまう。

僕はそんなことは気にしないので、いやな思いをさせてしまうかもしれないね。
そこが僕の大きな欠点なんだよなー。

4人が一緒に話すこともなくなったので、午後9時にはベッドに横になることにした。
ところが、この寝台車には冷房が効いてなかった。

ソフトスリーパー(軟臥)なのだから、当然冷房は効くはずだ。
しかし、冷房はなかった。

そればかりか寝具もなかった。
だから、ジーンズを着たままで、そのまま横になる。

暑くて寝苦しい。
汗が流れ続ける。

線路基盤が整備されてないので、列車の揺れが激しい。
時々、猛烈な音で、列車の警笛を鳴らす。

うとうとしたと思ったら、列車の揺れと警笛音でハッと目が覚める。
また浅い眠りにつく。

その繰り返しだ。
やっと本格的に眠れるかと思ったころ、列車が完全停止した。

ハンさんに聞くと、「ハノイへ到着した」という。
腕時計を見ると、おいおい、まだ午前4時だよ。

ラオカイ駅では気がつかなかったが、この列車には欧米人旅行者がかなり乗っていた。
その集団が、ハノイ駅を出る。

駅を出たところには、シクロ(自転車の前輪に座席をつけたもの)とタクシーの大群が待っていた。
欧米人は次々と乗り込み、あっという間にいなくなった。

ハンさんはどこかへ消えてしまった。
残された観光客は、僕たち日本人3人だけだ。

もちろん夜明け前の午前4時。
ハノイの宿に心当たりはない。

まあこういうときは、駅の待合室で夜が明けるのを待てばいいだけ。
待合室にはプラスチックの椅子がずらりと並んでいる。

椅子で寝ている人も多いが、僕たち3人分の椅子は見つかった。
バックパックを降ろして、座る。

さて次にすることはなんだと思う?
もちろん朝になればすることは一つ。

そんなに便意はないが、動き出す前にトイレには行くだろう。
そこで世界旅行者は、まずトイレを探しに動き出した。

【旅行哲学】駅に着いたらトイレを探すのが基本。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080309