上海〜バンコク旅行記(2002)より、第70話《ハロン湾ツアーU:箸を自慢するへらへら学生旅行者はグループを間違っていた》

【ハロン湾の奇岩群】
ハロン湾ツアーの出発は、午前8時過ぎになった。
日本人旅行者を5人程度、あと僕が気になった日本女性を乗せた大型バスは、最初ゴミゴミしたハノイの市街を走る。

そのあと、ちょっと郊外の農村地帯を走る。
手持ちの「Lonely Planet South East Asia on a Shoestring」によると、ハノイからハロン湾までローカルバスで160kmで、3〜4時間とか。

それならば、ツアーバスだからとっとと2時間半くらいで行ける。
と思うようでは、キミは旅のことが何にもわかってない。

ツアーバスというものは、金を持っていてすぐに使いたいと考える、お調子者の人間(旅行者)を満載している。
「ツアーバスは宝の山」だよ(笑)。

そんなバスは、土産物屋に寄るのが常識だ。
僕らが乗ったツアーバスもハノイを出て、一時間半たったら土産物屋にストップした。

バスにはトイレがなかったので、軽いトイレストップならばナットクする。
ところがここで40分も休んだんだ。

僕は知っているが、ツアーバスはこの土産物屋に何人連れて行ったか、何分停車したかで金をもらってるね。
もちろん僕は何も買わなかったが、ビールを1本飲んだ。

飲んだのはタイガービールで、1万5千ドン。
ハノイだと、1万ドンくらいなので、5千ドンくらい儲けさせてしまったよ。

またバスに乗り込んで、ハロン湾に到着したのが正午12時になった。
バスを降りると、ごみごみした町で、いろんなツアーが集合している感じ。

バスに乗っていたベトナム人の指示に従って、わけがわからないまま、ぞろぞろとついていく。
ここで気がついたが、いろんなツアーが来ているようで、ツアーの人たちが行き交う。

同じような人たちがうろうろしているので、下手をすると、グループを見失いそうになる。
僕は大阪くんといっしょで、また気になった日本女性をじっと見ているので、何とか着いていく。

集団で移動する時は、誰か知っている人がいるというのは強いよ。
そのまますぐにボートに乗るのかと思ったら、昼食になった。

行ったところは、わけのわからないビルの地下のレストラン、というより食堂。
ハロン湾という海のクルーズに来て、昼食が地下の食堂だなんて…(涙)。

もちろん、僕が参加したツアーは日帰りで14ドルだ。
もっと高い日本語ガイドつきの、多分1日1万円くらいするツアーならば、海の見えるレストランのベランダなんかで、食事が取れるんじゃないかな。

ぞろぞろと食堂に入っていって、適当に席に着く。
すると、もちろん日本人は日本人で自然と固まってしまう。

僕と同じテーブルに着いたのは日本人だけの6人。
僕と大阪くん、身体のゴツイ男、へらへらした男、ちょっと格好いい男の5人と、僕が気になっていた日本女性だった。

旅先のツアーで、昼食で同じテーブルに日本人が一緒になる。
今の人はこういう状況でも、互いに無視しあうことが多いようだ。

ところが世界旅行者みどりのくつした(みどくつさん/みど先生)は、どうしてもみんなに話しかけたくなる。
この理由と言うのがね、僕はもともとユースホステラーだったから。

大学時代は、全く勉強せずに、日本中を旅してユースホステルに泊まっていた。
京都のユースホステルグループに参加して、嵐山の宇多野ユースホステルでギターを弾いて唄を歌ったりしていたんだ。

今はそんなことはないと思うが、昔のユースでは、ミーティングというものがあった。
知らない人と何人かで同じテーブルについて、話し合って親しくなるというもの。

昔の日本人は、知らない人に声をかけるのが恥ずかしかった(いまでもそうかな?)。
だから、ユースでもミーティングみたいな機会がなければ、他人と知り合えなかったんだよ。

僕はこのミーティングを仕切るのがうまかった。
誰とでも一応話を合わせられるという能力がついたのは、このユースホステル体験からだ。

6人くらいのグループがいたら、全員に話をさせて、互いの共通点を見つけてあげて、親しくさせるみたいなことが、上手なんだ。
みんなを盛り上げなければならないという変な義務感があるわけね。

声をかけて、みんなにそれぞれの旅の話をしてもらう。
それでわかったのだが、僕が気になっていた日本女性は身体のごつい男と結婚している。

僕は身体のごつい男と、ほっそりとした上品そうな女性が結婚したということは、きっとアレがいいんだろうなーと思った。
というのは、身体のごつい男はあんまり話もせず、頭も切れそうではなかったからね。

この男はアレがいいからこの上品な女の子と結婚できたんだな、と推定する。
上品そうな女性ほど、本当はセックスが好きなんだよ(世界旅行主義)。

気になっていた人妻さんの服は、ハノイで既製品を買ったのだとか。
「ベトナム女性の既製品が似合うということは、ベトナム美人みたいにスタイルがいいってことですね♪」と、持ち上げる。

人妻さんは、かなり金持ちの家庭の出身で、育ちもいい。
お母様が海外旅行が好きで、ヨーロッパによく行くとのこと。

それは話の内容や、話し方でわかる。
僕もスムーズに人妻さんを持ち上げ続けた。

途中で、これはちょっとやりすぎかも、と気がついた。
「ご主人がいらっしゃるのに、奥さんを口説いてしまってすみませんね」と、一応、謝りました。

まあ、ご主人が一緒にいるところで奥さんをほめても、僕と奥さんとの関係が進むわけではないので、気楽といえば気楽だ。
でも、僕が奥さんを好きだってことは、彼女ははっきりと理解したよ。

僕はスペインのバルセロナでスペイン語学校に行って長期滞在していた。
だから、いい女を見たら、とにかくほめるということが、習慣になっているんだ。

ちょっと格好いい男は、3ヶ月で東南アジア一周をしている。
へらへらした男は、どこかで買った象牙の箸を見せて自慢していた。

へらへらした男に旅の説教をしてあげた。
旅先で旅行初心者に旅の説教をするのはとても楽しいね。

ただ何を説教したか忘れた。
旅先で言うことは結構いい加減なものなので、読者の皆さん、あんまりまじめに聞いちゃダメだよ。

楽しく話をしているうちに、僕に疑問がわいてきた。
このへらへら男は、おしゃべりだし、その存在自体が目立つ。

こんな目立つ男が同じグループにいたら、これまでに気がついているはずだ。
この男は、確か、出発の時に一緒じゃなかった。

バスの中でも、途中の土産物屋でも見なかった。
ひょっとしてツアーを間違っているんじゃないかな。

そこを聞いたら、へらへら男は急にまじめになった。
「いや僕もいっしょのバスで見なかったと思ったんですよ。やはり間違ったかー!」

僕は「グループが違ってもいいじゃん。このグループでもだれも気がつかないよ」という。
これはたぶん非常に適切なアドバイスじゃなかったかな。

いかし、彼はあわてて、1人でレストランを飛び出していった。
僕らもそのあとで食堂を出たが、通りはいろんなグループでごった返していた。

まず彼のグループは見つからなかったと思うよ。
とすると、彼はどうなったのだろう?

でも旅では、過ぎ去ったことは考えない。
常に今のこと、明日のことだけを考えるものなんだよ。

実は僕もすっかり忘れていた。
この話を書くために、メモを見直して、それでへらへら男のことを思い出したんだから。
さて、これからやっとハロン湾のツアーが始まるわけだ。

【旅行哲学】ツアーではグループから離れないように。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080317