上海〜バンコク旅行記(2002)より、第71話 《ハロン湾ツアーV:世界旅行者がハロン湾をズバリ評価する》

【小型ボートに乗り換えて、神秘の洞窟探検へ】

【トンネルをくぐって入った、岩に囲まれた入り江で】
昼食を取って、食堂を出てぞろぞろと歩く。
いよいよハロン湾クルーズの開始だ。

僕は大きなボートに、いろんなグループが一緒に乗るものだと勝手に思い込んでいた。
ところが、同じバスで来たグループは一緒の二階建ての船に乗るだけだ。

他にも同じ形の1階席と2階席の船がたくさんある。
他のグループと乗り合いになるわけではなかった。

僕たちのグループの欧米人旅行社諸君は、すぐに2階席に上って、景色のいい席を確保した。
ところが日本人はほとんど1階席に留まった。

でも不思議ではない。
日本人はそんなにしつこく、きれいな景色を見たいなんか思わないものなんだよ。

日本人はなんにでもあっさりしているの。
ハロン湾の奇岩群に入ったときに景色をさっと見れば、それで満足する。

ずーっと見ているとすぐに飽きてしまう。
もともとハノイに来ればハロン湾という世界遺産があるから見に来ただけ。

確かに僕も、正直、そんなにハロン湾の奇岩を見たいとは思ってないんだよ。
世界遺産のハロン湾があるから、それをちょっと見ればいい。

あとは、ビールでも飲んで、ごろごろしていたい。
まあこれが、日本人の考えだし、日本の観光地、観光のシステムではないかな。

ほんのちょっと景色を見たり、名所旧跡を訪れたりして、あとは温泉宿での宴会が楽しみ。
観光地へ行くのは名目で、あとは気楽に温泉に浸かって、酒を飲むもの。

これが日本人の観光というものなんだよ。
だから1階にいる日本人旅行者集団は、ハロン湾の奇岩に近づいた時に、ちょっと2階に上がればいいと落ち着いている。

僕も大阪くんと1階席で話をしていた。
でももちろん、僕はいままでの会話で大阪くんは見切っている。

特に面白い人間ではない。
ではなぜ彼と話をしているかと言うとだね、実は横のテーブルに座っている人妻さんに話すためなんだ。

人妻さんは、ご主人と一緒に向かい合わせに座っている。
でもご主人は、話が面白くない、ただ体力だけの人だ。

人妻さんと僕は、すでに気持ちが通じ合っている。
互いに相手を気にしていると、わかっている。

そこで、僕は大阪くんと話をしながら、実は人妻さんを喜ばせるという高度なテクニックを使った。
それはもちろん、人妻さんは向かい側の席で、僕の言うことに耳をそばだてているとわかってたからね。

僕は大阪くんに「キミは学生だそうだけれど、いま何歳なの?」と聞く。
すると、大阪くんは「大学4年ですから、いま22歳です」と答える。

僕は「でもキミは落ち着いているから、年上に見えるねー」と言う。
大阪くんは、「いくつぐらいに見えますか?」と聞く。

僕は「まあ35歳くらいかなー!」と答える。
大阪くんは、「えー、そうですかー」とショックを受ける。

それで、人妻さんは、聞かない振りをしようと努力したが、無理だった。
オオウケしたよ。

実は、僕は人妻さんを笑わせるために、この会話をしたのだから。
これで僕がどれだけ彼女を思っていたか、2人だけで互いに深く通じ合ったわけだ。

さて、僕たちを乗せたボートは、どんぶらこ、どんぶらこ、と進む。
しかし、20分ぐらいしたら、何の変哲もない島の桟橋に到着した。

みんなが降りるので、ぞろぞろとついていく。
すると、どうやらここは、鍾乳洞見学ポイントらしいよ。

それで洞窟へ入ると、ピンクや青や、赤の照明がぎらぎらして、とても気持ちが悪い。
日本でも田舎の鍾乳洞なんかでは、鍾乳石にいやらしい照明を当てて、適当な名前をつけて、下品さがミエミエのところがある。

まあ結局、ベトナムの感覚は、日本の田舎と同じ程度の考え方なんだよ。
この洞窟の中は、ものすごく蒸し暑かった。

僕はちょっと入っただけで、「こんな変なところは見る意味がない!」と、とっとと出てきた。
グループの人たちは、また次の洞窟へ入っていくが僕は遠慮する。

時間つぶしに桟橋へ歩く。
するとおばさんが缶ビールを売っていた。

値段を聞くと、3ドルだとのこと。
オイオイ、ハノイでは1万ドン(80円)だよ。

それが、3ドル(360円)とは、メチャボッタクリではないか!
でも、読者の皆さん、これがベトナムのボッタクリの一つの例なんだよ。

せめて、ビールを2万ドン(160円)くらいにすれば、買う人も多いだろうね。
でも、3ドルは吹っかけすぎだ。

でもそれをちっとも変だと思わないんだ。
だから、ベトナム人は平気でボッタクルという噂があるんだよ。

「ベトナム人は、平気な顔をして吹っかける」ことを覚えておいた方がいい。
ドヤドヤっとグループのみんなが戻ってきて、一緒に船へ戻る。

このときに、僕が乗っている船の特徴を書き留めた。
僕たちが乗っている船に「Halong01」というプレートが付いていて、しかも船の外が白く塗ってあった。

個人旅行者がバスに乗るときも、船に乗るときも、その特徴や番号を控えておく方がいいよ。
僕も米国をグレイハウンドで旅していたとき、同じバスがずらりと並んでいて、自分のバスを見つけるのに冷や汗をかいたことが何度もあるんだから。

ただ、ハロン湾のボートで同じことが起きるとは、予想してなかったんだ。
ボートはこの、わけのわからない洞窟のあと、本格的にハロン湾の奇岩群へと進む。

周囲が変化してきて、奇岩群の中に入ったと思ったころ、僕たちは2階席へ登った。
2階席の椅子はすべて欧米人に占拠されていた。

が、ボートの2階で風景を見るのに何の支障もない。
大阪くんに、2階席で僕が立っている写真を取ってもらう。

ただこの風景も、何十分も見続けるほどすごいものではない、と僕は感じた。
僕の旅行経験から思い出すと、船に乗っていた景色ですごいものは、2つだけだった。

一つは、スウェーデンの首都ストックホルムの夕方に、ヘルシンキ(フィンランド)へ向かう豪華巨大フェリーシリアラインに乗ったとき。
すばらしい夕暮れと、フェリーを追いかけてくるヨットの群れ、小さな島に建つ別荘群、この風景は僕の記憶から離れない。

もう一つもやはり北欧で、ノルウェーのフロムからグドヴァンゲンへのフィヨルドを行くフェリーだ。
このときは季節もよかったのだろうが、フィヨルドの断崖から落ちる数限りない滝を、ほとんど人のいない甲板で見ることができた。

ある季節のある天候の下で、そこにいた旅行者だけが味わえる感動。
これはいくらお金を積んでも、味わうことは不可能だ。

だから僕は、「世界旅行者は神に愛されている」と信じているわけだよ。
奇岩群の中に入っていくと、おそらくは水上生活者らしい船が集まっているところへ着いた。

ここで、なにか特別な景色が見れるらしい。
「water cave」というので、なにやら洞窟へ行くようだ。

しかしもちろんそのためには、特別料金が必要だ。
これが、ツアー料金とは別に2万ドン(1ドル30セント/150円)。

別の小さなボートに乗って、すいすいと進みます。
ボートは島の岸壁に開いた穴に入る。

それをくぐり抜けると、中は、周囲を断崖に囲まれた小さな入り江になっていた。
なかなか感動的な風景だが、僕がいままで見てきたすばらしい風景に比べれば、どうということはない。

せっかくなので、その場所に立つ世界旅行者という感じで、写真を取ってもらいました。
ハロン湾ツアーは1泊2日もあるし、その時は別の島も訪れるのだろう。

でも、気候的にいっても、ハロン湾は南の島のビーチというわけでもない。
僕が2005年にインドのゴアで会ったイギリス人カップルは「ハロン湾はゴミが浮いてて汚かった」と言ってたし。

ハロン湾は、それほどたいしたところではない。
ハノイからの日帰り程度で十分だと思いますよ。

【旅行哲学】ハロン湾は日帰りで十分。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080318