『世界旅行者には、239ドル55セントしかお金がない。しかもクレジットカードが使えない!』

僕がロサンゼルスに来た目的は、「生きぬく」ためだ。
はてさて「生きぬく」とは何だろう?

「食っていく」ためだ。
「食っていく」とは何だろう?

食うための「お金」を手に入れるということだ。
さてこれで分かったと思うが、単純にお金がないのだ。

「ホテル大元」の薄暗い部屋の固いベッドの上に、有り金を全部広げてみる。
トラベラーズチェックが100ドル2枚の200ドル、20ドル札、10ドル札と小銭を全部合わせると239ドル55セント。
これが有り金全部だ。
ロンドンからニューヨークへ片道切符で飛んで来たので、日本へ帰る切符はない。
この時期のレートで換算して、たった3万円しかない。
しかもホテル代は1泊が20ドル(1988年です)。
食事をすれば、あと1週間しか生きていけないことになる。
どうしたらいいだろう。

もちろんクレジットカードはある。
旅行に出る前に万が一のことを考えて、貴重品を某大手都市銀行の貸金庫に入れておいた。

カード類は全部貸金庫に入れる予定だったが、最後の瞬間に一枚だけのこしておいた。
出来るだけ使うつもりはなかったが、現地通貨の手持ちが少ないときには思いがけなく役に立ったものだ。

しかしそれもアメリカに入るまでだ。
アメリカに入ったとたんに問題がおきた。

それはニューヨークのワシントン広場のそばにある「バナナリパブリック」だった。
革のジャケットを買おうとした時に、店員が僕のカードをキャッシャーにある磁気読み取り機に通した。

すると「許可を取れ」という返事が出てきた。
店員が電話をかけても、返事がなかなか来ない。

とうとう買うのをあきらめてしまった。
それでいまはなき世界貿易センタービルにあった、某都市銀行の支店を訪ねた。

その時に対応してくれた日本人の銀行員は、「日本に電話をかけろ」ということだった。
そこでピーンときた。

「信用がないんだな」

僕のように銀行に貸金庫を持って、数億円の定期預金のある男(ウソ)に信用がないというのはおかしい。
そう、僕を知っている人は思うだろう。

しかし、これには理由があるのだ。

そのころ僕は、義理ではいったものを含めて4枚のカードを持っていたが、このカードが一番長く持っているメインカードだった。
つまり、昔僕が某ゼネコンの本社勤務の、エリート社員だった時に作ったものなのだ。

この会社を辞めて住所変更はしたが、なぜか勤め先の変更はしなかった。
それまで何の問題もなく引き落としが出来ていたし、やはり一流企業をやめたことに内心ではいろいろと考えることがあったのかもしれない。

カードの勤務先はそのゼネコンのままになっていた。
他のカードでは職業は自営業になっていたりしたのだが…。

更には麻布の超高級豪邸を引き払った時の住所変更もしていなかった。
だから当然ヨーロッパやアフリカでカードを使った支払の通知は宛先不明になっているはずだ。

僕は現在、無職で住所不定の男なのだ(つまり、本物の旅行者という訳だが)。
これではいくらカードの支払がきちんとしていても、カードの支払をすんなりと認めなくても仕方がない。

さて、ここで君ならどうするだろう?
「日本に電話して事情を説明すればいいじゃないか?」と考える人もいるだろう。

君はまじめな人だね。
でも本当の社会の厳しさをしらない。

日本社会というものの基本は「責任逃れ」なのだ、ということを知らないね。
日本に電話をして「離婚して、世の中に絶望して、目的もなく、世界中をうろうろしている世界旅行者です」と言うか〜(笑)?

「仕事も住所もありませんがカードを使わせてください」と正直に説明したらどうなるか。
カード会社の社員が、世界旅行者をすんなりと認めるだろうか?

かえって「それではカードを使用停止にします」と言う方がありそうなことなのだ。
これならば会社員の責任にならないのだから。

考えてみると、今のところアメリカでカードを使うときに、すんなりと使えたこともあり、かなり厳しかったりしたこともある。
が、少額ならば問題にはならなかった。
ということはカードは、だましだましに少額の支払に使えば何とかなるかもしれない、ということだ。
さて、海外旅行でカードを使う理由の一つはキャッシングが出来るということ。
今までそんなことはしたことがなかったが、出来るものなら何とか現金を手にしたいものだよね。
リトル東京の街角にはあちこちにキャッシュディスペンサー(ATM)を見かけた。
でも今までに使ったことがなかったし、僕のクレジットカードが使えるかどうか分からない。
下手にカードをATMに入れると、カードが飲み込まれてしまう恐れもある。
銀行に行けば何とかなるだろうというので、リトル東京にある三菱銀行に行った。
窓口でカードを出して「500ドルキャッシングしたい」というと、どこかへ電話をした。
しばらくして、「500ドルのキャッシングはできない」という返事が戻ってくる。
まいった!
世界旅行者は、まだ中南米にも行ってないのに、このまま飢え死にをしてしまうのか!
神は常に世界旅行者を守っているはずだが…。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080520#p5