1988年の大晦日、世界旅行者はダイマルに失望して、幻のホテルを捜そうと考える

【新しいグレイハウンドターミナル@7番街/ロサンゼルス】
(日本語では「ロサンジェルス」よりも「ロサンゼルス」が普通みたいだね)

さて、昔日本人の若者がアメリカ中をグレイハウンドで旅をしていたときに利用した、バス乗り放題の「アメリパス」について解説しておこう。
僕はアメリカを旅行する前に、ロンドンのグレイハウンドの事務所でアメリパスを購入した。

この時の値段が一か月で140ポンド。
この時期のレートが1ポンド=250円と考えて、約3万5千円。

ロンドンの日本書店で立ち読みした日本のガイドブックには「アメリカ国内ではアメリパスを買えない」と書いてあった。
ついでに「アメリパスの延長はアメリカ国内ではできない。日本で一日あたり2千5百円はらってやっておくこと」と親切に解説してあった。

もちろんこんな本を信じてはいけない。
そのころの日本のガイドブックは、間違いだらけだというのが常識だったのだ。

ロンドンのオフィスで「本当はアメリカ国内でも買えるんじゃないの?」とたずねる。
カウンターのイギリス女性が「買えますけれど、20パーセントほど割高よ」との話。

アメリカに入ってみると、「延長は一日10ドル払えばその場でできる」し「アメリカ国内でアメリパスを売っている」ことがわかった。
僕は実際にマイアミで一か月のアメリパスを買ったんだから。

その値段が250ドル、レートが1ドル=135円として、日本円で3万4千円程度。
結局は国内で買っても同じだったよ。

日本のガイドブックというものは、旅行代理店や旅行業者のタテマエの話を集めているだけ。
旅行経験のほとんどないライター、編集者が本当か嘘かわからない話を、適当にまとめているだけ。

僕のグレイハウンドのアメリパス体験だけでも、それが証明されたわけだ。
つまり、永遠の真実は、「旅のことは旅に出た人間しかわからない」ってことね(笑)。

僕はまだ中米から南米へ下ることに迷いがあった。
一人だけ出会った南米旅行者は、あまり性格的に気に入らなかった。

彼は人間的にもおもしろくなかった。
東南アジアに良くいるタイプの、旅行通をきどるつまらない人間が南米にはいっぱいいるのかもしれないね。

もしそうならば、わざわざ疲れる中南米旅行をするのもいやだね。
それに、ヨーロッパに関してはまだまだ見逃した国や町もある。

ヨーロッパの方が旅行としてはおもしろい。
また、ロンドンへ戻ろうかしらん?

それに、アメリカの中央部をもう一度大陸横断して、NYへ入るのも面白い。
僕は北米の東海岸を下り、南海岸を西へ通り、また西海岸を北上して南下してきた。

ただ、米国の中央部はぽっかり抜けているんだよなー。
それに、ニューヨーク生活も、もっと続けてみたい気もするし…。

とすると、手持ちのアメリパスをちょっと延長しなければならない。
3日バスに乗り続ければ大陸横断できるのだが、途中でちょっとデンバーやシカゴに立ち寄ってもいいのだから。

迷っている時に沖縄の女の子に出会った。
彼女のアメリパスのは、まだ有効期限までたっぷりと残っている。

彼女がわざわざラスベガスに行ったのは、ギャンブルしたいということもあった。
が、実はアメリパスの有効期間が長過ぎたので、無理にでもそれを使いたいというのもひとつの理由だった。

それで僕は、女の子のアメリパスを僕が使ったらどうだろう?と考えたわけだ。
もちろんこれは、旅先で思い浮かぶ、単なる思いつきにすぎないわけだが。

だから、彼女がラスベガスへ発つ前に「君のアメリパスを僕にくれないかな?」と話をした。
沖縄の女の子も、「どうせいらないからいいよー♪」と、互いに了解していた。

ところが僕は、違法行為はゼッタイしない人間だ。
僕の心の中では、本当は「ここまで着て、中南米に下らなければ男じゃないっ!」と考えていた。

何があっても中南米に下だろうと思っているからこそ、中南米に行きたくない気持ちになるわけだ。
例えば、ある女の子が好きだと自分でわかっているときに、「こんな女と付き合っても意味ないし」と思うようなことかな…。

女の子のアメリパスをもらっても、意味ないとは思っていた。
ただ、また沖縄の女の子に会いたい気持ちも会ったんだよ。

僕はロサンゼルスのダウンタウンで中南米のガイドブックを探して歩き回り、疲れてホテルへ帰ってきた。
すると、沖縄の女の子はすでにラスベガスから戻ってきていて、僕の部屋から荷物を取り出し、空港へ向かったという。

僕の部屋には彼女の住所と、「またどこかでお会いしましょう♪」とのメモが残してあった。
なかなかさわやかな女の子だよね。

階段の踊り場で、また宿泊者連中と旅の話をしていると、四国の田舎男がやって来た。
「あの女の子が僕にアメリパスを残していきましたよ」と、得意そうに言う。

僕にはすぐわかったが、これは僕がいなかったために田舎男に預けたのに決まっている。
だって、田舎男は沖縄の女の子と話したこともない。

彼はバスに乗り続ける根性がないから、またグレイハウンドに乗るはずはない。
彼はただ、ダイマルに居続けて、そのあと日本に帰るしかないのだから。

僕はカチンと来たが、どうせアメリパスは必要ない。
沖縄の女の子との話のネタに使っただけだった。

ダサオと口をきくのもいやだったので、彼を無視して他の連中との話を続けた。
彼は誰も相手にしてくれないので、寂しそうに自分の部屋へ戻って行った。

自由になるために旅行に出ているのに嫌な奴と話をしなければならない理由はない。
いかにも日本的な感覚のやつがいるのは、「ホテルダイマル」は「地球の歩き方」で絶賛してあるせいだ。

だから、日本からぽっと出の旅行経験のない人間が多い。
日本のべたべたした人間関係がそのまま持ち込まれていて、気持ち悪いね。

もっとアメリカらしく、スカッとしたところに行きたいものだ。
ほかのもっと居心地のいいホテルに移ろうかしらん…。

そういえば、もう一つこの近くに安宿があるはずだ。
いつしか噂に聞いていた、幻の宿を探したらどうだろう。

この宿は、ダウンタウンの危険地帯にあるが「ホテルダイマル」の宿泊者は誰も目にしたことがないらしい。
そのホテルの名前は「ホテル加宝」という。

そういえばカレンダーを見ると、今日は1988年12月31日、大晦日なんだよ!
何かをするには、いいきっかけになる日ではないかな。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080523#p4