世界旅行者は4番街に「ホテル加宝」を見つける。そしてホテル加宝の扉が世界旅行者に開かれる

【4番街からサンペドロストリートを見る】
一番街から歩いてきて、4番街とサンペドロストリートの角に立って、あたりを見まわした。
うしろ、つまり一番街の方向を見ると文明の香り高いきれいなビルがそびえている。

一番目立つのが「ニューオータニ」だ。
このホテルが有名になったのは、「疑惑の銃弾」つまり「三浦和義」氏の「一美さん殴打事件」の舞台になったことだ。

その頃は日本からのすべてのTVクルーがこの同じホテルに泊まって、同じようなところを取材したという。
ところが、ワイワイとロサンジェルスに来ても、日本のテレビクルーに英語が片言でもしゃべれるような人間はいない。

日本のテレビクルーが、誰も英語ができないとすれば、騙され、ボッタクラレルのが常識。
中途半端な留学生やコーディネーターと言われる世渡り上手な連中は高額の通訳料で大もうけしたとか。

さらにはいいかげんな情報を売り込む自称情報通諸君が、大いに儲けた。
ロサンゼルスにいる日本人滞在者なんて、ウソツキだらけなのだから、信じる方がおかしいんだ。

右手を見ると、角にある小さなリカーショップの向こうには倉庫のようなおもちゃ問屋が並んでいる。
ここは韓国人経営の問屋街だとは後で知った。

前方には、ただがらんとした通りが見えるだけで、その両側には低いビルが並んでいる。
歩道にはホームレスとおぼしき人たちが、立ち話をしたり、歩き回ったりしている。

このまままっすぐ進むのは、なるべくなら、たとえ手招きで誘われても、お断りしたいものだ。
さて、問題の左手、「ホテル加宝」が存在すると予想される方向は特徴がない。

きれいな建物もなければ、問屋街もない。
あとで調べてみると、問屋があることはあったが、この角からは見えなかったのだ。

ホテルがありそうな雰囲気は全くないが、とにかくホテルがあると言われている住所は確かめてみよう。
ひょっとしたらこの幻のホテルはもうつぶれているのかもしれないのだから。

旅行の情報というものはどんどん変わるもので、それは今までも、いっぱい経験がある。
いい評判のホテルは取り壊されたり、値段が上がったりするものなのだ。

最近の例では、ヒューストンの某ホテルの話がある。
このホテルには、ポルノ映画専門のケーブルテレビが入っていると、JTBのガイドブック「自遊自在」に書いてあった。

宇宙基地とアストロドームで有名なヒューストンに、宇宙に興味のない僕がわざわざ立ち寄る必要はなかった。
しかしぼくはわざわざ、「長時間バスに乗るのは疲れるから」とニューオリンズとサンアントニオの間で、敢えてこの町に降り立った。

その理由は、ポルノ映画専門テレビの情報があったからかもしれない。
僕はまだその頃は、自分を行動に駆り立てる不可思議な力を、はっきりと見定めてはいなかった。

それは「セックス」だと最近わかったのだが…。
ヒューストンではYMCAに宿泊して、「さて、町を見物しよう」と言い訳をつける。

噂の「ポルノ映画ホテル」を歩いて捜しに出た。
結局ホテルの住所には取り壊し中のビルがあった。

なぜか頭に来た僕はJTBに手紙を書いた。
「嘘を書くんじゃない!僕はSEXに興味がないけれども、若い学生さんはがっかりするじゃないか」とね(涙)。

このように、僕はまだ自分というもの(そして、人間というもの)の実態が、わかっていなかったのだ。
これがわかるようになったのは、やはり中南米の国境をただ一人陸路で越える前の夜の経験かな。

ベッドひとつだけの薄暗い安ホテルの部屋で、神に祈りながら、自分の弱さを見つめ続けたことによるのだ。
というわけで、目当てのホテルがないならないでそれも良くある話、問題はない。

それなら、6番街とロサンジェルスストリートの角にあるグレイハウンドのバスターミナルから近い「ホテルセシル」へ行ってもいい。
ホテルにはTVも付いているし、ホットシャワーもどんどん出る。

まあ、ちょっと部屋が臭うのと、危ない人がうろうろしていて、身の危険を感じるだけだ。
ただ、ホテルが無いというのも立派な情報なのだから、それは確かめておきたい。

そう考えて、ただひたすら4番街を東へ進むと、3階建ての白亜のビルディングが突然出現する。
まあ、白亜とは言ってもかなり汚れていて、昔は白亜だったろうとの意味だが。

はてさて、これがホテルらしい。
でもこの同じ通りの同じブロックにあるはずの2軒のホテル、「ホテル加宝」と「HOTELCARVER」のどちらなんだろう。

看板が出ているぞ。
そこには、「ホテル加宝」と日本語ではっきり書いてある。

しかし、その横に縦書きで「HOTEL CARVER」とも書いてある。
ふ〜む。

やっと謎がひとつ解けたわけだ。
「ホテル加宝」と「HOTEL CARVER」は同一のホテルだったのだ。

しかし、人の気配が全くない。
ホテルの入口には鉄格子ががっしりとはいっている。

その隙間から覗くと、入ったところにもう一枚ガラスのドアがある。
それも閉じたままだ。

さてどうしたらいいのだろう。
僕は鉄格子の扉を、両手でつかんで、がたがたと揺らしてみた。

すると、突然「ブーッ」と音がして、引っ張ったドアががたんと開いた。
なぜなんだ!なぜ開いてしまったのだ!

僕はドアの前で、入るべきかそれとも逃げるべきか、呆然と立ちすくんだ。
以前耳にした「4番街に行って、生きてホテル大元へ戻ってきたものがいない」という話が頭でフラッシュした。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080523