「長期旅行者は勇気があるので、現実以外ならなんにでも直面できる」(cuba4)

 

Travellers are brave people.
They can face anything, except reality.

 

大山さんは「ホテル加宝」で一番いい部屋、つまり1階にある115号室を僕のために特別料金にして、ちょっと安くしてくれた。
おやおや、今回はちょっと扱いが悪いね。
僕の宿泊料金は、基本的にタダだったはずだが…。

以前は「世界旅行者協会」関係の人間や世界一周旅行希望者などを、このホテルへどんどん送り込んだので、貢献度が高くて扱いもよかったのだが、パソ通を始めて以来、あんまりまともな旅行者と知り合わない。
そのせいで、最近は面白い人間を送り込んでないのだから、まあ仕方がないだろう。

大山さんはエロ本を5、6冊持ってきて、「西本先生のために、特別に取って置いたのよ!」と、寄付してくれた。
部屋に荷物を広げ、エロ本を今夜の楽しみにと引き出しに大切にしまい、ロビーに戻って長椅子に座り、テレビを付けると、アメリカの番組が流れ出し、懐かしい記憶がいくつもよみがえる。

このロビーでいろいろな人間と出会ってきた。
懐かしい顔が次々と浮かんできて、僕に話しかようとする。

「西本さん、まだそんなことをやってるんですか?」
「もうそろそろまともになったら?」

しかし、思い出す人たちすべてから、こう言われるのがわかっているので、すぐにその記憶を頭を振って消した。

もちろん戦いの記憶もある。
僕はこのロビーでとんでもない旅行者たちと戦い、そして、一度も負けなかった。

このロビーは僕にとっての、いわば真剣勝負、K1グランプリのリングだった。
ここで僕と戦い、敗れていった、旅行戦士たち。

僕のような本物の「世界旅行者」に無謀にも挑戦した、向こう見ずな彼らのために、赤い薔薇と黙祷を捧げよう。

僕はよく「その自信はどこから来るのですか?」と聞かれることがある。
もちろん自分に対しての揺るぎない信頼、確信というものは思い込みだけで生まれるものではない。
本物の自信は経験から、戦いの中から、勝利の経験からのみ生まれるのだ。

「ホテル加宝」での様々な戦いが現在の僕を作り上げ、日本で唯一無二の「世界旅行者」としての立場を確固たるものにしてくれた(日本ではそれを誰も評価してくれないが)。

そう、まず思い出すのは、いやに自信たっぷりな態度で加宝に来た福田君のことだ。
ふふっと微笑んで、彼の顔を思い出そうとするが、思い出せない。
ほとんど忘れてしまったようだ。

思い出せるのは、彼のあごひげだけだ。
そう、僕がこのロビーにいて、友人と馬鹿なことを言って暇つぶしをしていたとき、福田君は、のそっと入ってきた。
僕は彼の様子を見て、僕はすぐに旅行戦闘モードに入ったが、それを表面には出さなかった。

そう、まずこの福田君の話から、旅行者の本当の姿を説明してみよう。

(cuba4)

cuba5

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