4)航空券が見つからないなら、ナンパしかない

 

もうみんなすっかり忘れてしまったと思うが、2000年の始めには、Y2K問題というものがあった。
ここで馬鹿馬鹿しい解説をしておきたいものだが、いい冗談が思い浮かばないので、ここははしょっておこう(本来は、ここで一つ笑いを取らないといけない所なんだが)。

年が明けて、友人の車で、ビバリーセンターへ新年の買い物に出かけることにした。
LAで知り合った美人看護婦さんもいっしょだ。
このように、LAでは誰でもすぐに友達ができるし、人間関係もあっさりしていて、気楽に、だらーんと過ごせるのがいいところだね。

あまりにだらーんとしているので、スカイパスのことをまた忘れていたが、友人が「西本さん、スカイパスの件はうまくいったんですか?」と聞いてくれた。

このように、友達というのはとても役に立つ。
自分のしなければならない予定を、面白おかしく、大げさにしゃべって置くと、ちょうど忘れたころに、続きを聞きたいのか、「あれはどうなったんですか?」と思い出させてくれるのだ。

僕はもともと、一つのことに熱中すると、他のことはすっかり忘れてしまう人間だ。
昔、サラリーマンとして会社に通勤していた時、電車の網棚に荷物を置いたら最後、半分ほどは置き忘れていた。
だから、「網棚に荷物を置くのは止めよう!」と思うのだが、電車に乗ることに意識を集中すると、網棚に荷物を置かないという決意までも忘れてしまって、性懲りもなく、何度も何度も、大事な書類を置き忘れたものだ。

今回も、友人の言葉で、やっとスカイパスのマイレージ登録を思い出し、ベバリーセンターへ行く途中に、ダウンタウンの大韓航空オフィスへ立ち寄る。
簡単に済むと思ったので、近くの路上に車をとめてもらって、二人を車に残したまま、オフィスへ行ったのが、午後2時25分頃。
ドアに「昼食中。午後2時半からオープンです」と書いてあった。

前回は休みに入ったばかりの時だったし、こんどは来たのがわずかに早すぎた。
大韓航空は、どうしても僕と会いたくないようだね。

隣にあるLA観光案内所で、数分時間つぶしをして、2時半ちょっと過ぎに大韓航空オフィスに戻ると、開いたばかりらしく、客は誰もいなくて、がらんとしている。
奥のカウンターに、細面の、すらりとした、若い韓国美人が一人。
顔を見ると、きりりとして、かなり頭の切れそうな雰囲気だ。

僕は、カウンターに近づきながら、「これはちょっとまずいかも」と思った。
もともと女性と男性を比較すると、女性の方が絶対的に仕事に厳しい。
しかも、若い女性で、大学卒業したばかりという雰囲気なので、仕事への意欲に燃えていて、厳しく事務処理をするだろう。

もちろん、今回のマイレージが登録できれば、LAから成田への無料航空券が入手できるとは、すでに東京で確認してある。
しかし、旅先では何が起こるかわからない。
本当は規則でないことでも、規則だといわれてしまえば、おしまいだ。
結局、なにごとも、自分が直接会って話す担当者の気持ち一つなんだよね。

僕はほとんどすべての国境を、貧しい格好にもかかわらず、ただ立派な人格だけで、問題なく通過してきたというのが自慢だ。
その僕も、ただ一度だけ、フランスからスイスへのバーゼルの税関で、何を疑われたのか、バックパックを全部開けられて、日本大使館へ人物照会されたことがある。
その時も、意欲に燃えた、若い女性係官だったっけ。

カウンターでスカイパスのカードを提示して、ボーディングパスの半券を見せて、「チェックインカウンターでマイレージを登録し忘れました。ここで登録すれば、東京への片道無料航空券が手に入ると聞いたんですが」と言う。

若い韓国女性は、事務的にコンピューターに向かい、キーボードを叩いて、「はい、このマイレージで6ヶ月有効の無料航空券がもらえます。電話で搭乗予約をした後で、オフィスへ切符を取りに来て下さい」と言う。
そのあと、「では、あなたの航空券を見せて下さい」と続けた。

えっ?
航空券?
航空券とは、LAから成田往復の、もう使い終わったやつだよ。
マイレージ登録には要らないと思って、いま手許に持ってないんだが。

「航空券はいま持ってませんが、ボーディングパスの半券で、僕が飛行機に乗ったことは確認できるんですから、マイレージを登録して下さい」と要求する。
すると「航空券がないとマイレージは登録できません!」と、冷たい言葉が返る。

えっと、航空券、航空券、航空券がいるのか?
どこに置いただろう?

僕は旅行関係の書類などは、ホテルの部屋のタンスの引き出しに、いつも放り込んである。
航空券もそこにあるだろうから、ホテルに帰れば、見つかるだろう。
今日マイレージがもらえないと、また出てくるのが面倒だが。
問題はない。

「それでは、使い終わった航空券を持って、また来ます。また明日ねっ」と、愛想よくオフィスを出る。

 

しかし、ビバリーセンターで買い物を済ませて、部屋へ戻り、引き出しの中を隅から隅まで捜すと、航空券がどこにもみつからない。
どっと冷や汗が出る。
部屋中のありとあらゆる場所をひっくり返し、床を這いずり回ってチェックするが、どこにもない。

実は、昨日、新年になったからと言うので、ホテルに来て以来始めて、部屋を掃除して、役に立ちそうな書類だけを選んで、ノートに貼り付けて整理したのだ。
そして、不要なものをビニール袋に入れて、まとめて捨てた。

でも、航空券はどこにあったろう?
記憶にはないが、不要だと思って、ゴミとして捨てたのか…。

ホテルのロビーへ降りて、ホテルに泊っているみんなに、「航空券がないので、マイレージの登録が出来ないかもしれない。でも、これで世界旅行者らしい話になるよ。あんまり簡単に無料航空券が取れたら、普通すぎて、話のネタにならないからね」と宣言する。
と、友人が「確か西本さんの部屋でビールを飲んだときに、航空券を見ましたよ」と言う。

「昨日、LAに着いて以来ため込んでいたゴミを全部バッグに入れてゴミ置き場に出したんだ。きっと、あの中に入ってたと思う。これで、僕の『世界旅行主義』に新しい項目が一つ出来た。ホテルの部屋にあるゴミはチェックアウトまで捨てないで置いておくこと!」と、新ネタを披露する。

「どうするつもりですか?」と聞かれる。
そこで、「僕はツイてないようでツイてる人間だ。切符がなくても、必ず何とかなるはずさ」と、確信を持って返事する。

すると、たまたまそれを聞いていた、ホテル加宝のマネージャー大山女史が、言った。
「西本さん、昨日ゴミを捨てたのなら、まだゴミ置き場にあるわよ!新年になったばかりで、今日はまだ捨ててないから」

なんだって…。
LA到着以来ずっと部屋にため込んでいたゴミを、昨日、ホテルのゴミ置き場に捨てたのだから、使い終わった航空券は、部屋にないとしたら、まだゴミ置き場にあるはずだよ。

「ふっふっふっふ。さすがだね!」と思う。
「さすが世界旅行者先生のやることだ。これでゴミ箱を漁って、切符を見つけると、これは、ちょっと話のネタになる。世界旅行者のやることは、こういうふうに、どこか普通と違ってなければ面白くないんだからさ」と、みんなに言う。

正直、僕がなにか行動を起こすと、そこには、必ず、変な、普通じゃない、とんでもないことが起きる。
そうやって、僕は膨大な個人的経験を積み重ねてきているから、ありふれた旅行者とは違うんだよね。
「世界旅行者がゴミ箱漁って航空券を取り戻す」というのは、これはなかなかいいネタだ。

その日は、暗くてゴミを調べることは出来なかったので、そのままビールで、マイレージ獲得前祝いの宴会をした。
そして、翌朝、二日酔いにもかかわらず、日の出といっしょに起き出して、ゴミ箱を漁る。
自分の出したゴミ袋を全部チェックしたが、しかし、航空券は発見できない。

ということは、ロサンジェルス国際空港に着いたときにでも、調子に乗って捨ててしまったのか。
まいった!

ロビーに行くと、朝食の用意をしている大山さんに出会う。

「西本さん、切符は見つかったの?」
「捜したけれど、見つかりませんでした」
「それじゃ、日本にタダで帰れないの?」

「いいえ、大山さん。航空券がなくてもマイレージの登録なんかやってくれるでしょう」
「どうやって?」

うーむ、なにか手はないのか?
「そうだ、あの韓国美人をナンパしてしまおう!」と、突然、僕はひらめいた。

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i searched thoroughly in the trash bags for the used airticket in vain,
which lead me to seduce the young slender beautiful korean lady
in ordet to get my legitamate mileage.

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