《イスタンブールで医者の卵をつかまえよう!》
イヤー、僕もスーパーニューズマガジンの「GON!」に連載コラムを持つチョー有名人になってしまって、銀座三越のエレベーターガールから「世界旅行者先生!」と声をかけられるは、渋谷ではコギャルに取り囲まれて割引でSEXさせてもらうわと、すごくいい生活をしている夢を最近見るようになった(目が覚めるとあいかわらずだが)。
さて、一人で長い旅をしていると、日本語が懐かしくなる。
日本語で書いてありさえすればなんでも読むようになって、柄にもなく急に哲学を始める人間も多い。僕もそういう状況で哲学書を読んだが、なかなか役に立った。
ある本には「人には遊食権がある」と書いてあった。
わかりやすく説明すると「人間は生まれた以上遊んで、食べて、楽に生きる権利がある」というわけだ(そのままやんけ!)。
とても感動したのでこの本を持って旅行していたが、南米でトイレの紙がなかったので、つい破ってお尻を拭いて捨ててしまった。もちろんこのコラムの優秀な愛読者はとっくにこんなことには気付いていて「日本で楽に遊んで食っていけるんだから、わざわざ面倒くさい旅行なんかに行かなくてもいいジャン」と言うかもしれない。
でも年を取ってくると風俗も雇ってくれなくなるし、新聞配達も冬の朝はこたえるものだ。そこで「一生遊んで楽に暮らす方法」を教えてあげるね。
昔は医者になれば金が儲かって楽できた時代があったらしい。
しかしだんだん医者も競争が激しくなって、現在は本当に頭のいい人はこんな仕事にはつかなくなったとか。
でも医者と結婚すれば一生楽に暮らせるという理屈は依然有効だ。つまり男女共通に、医者と結婚して食わせてもらえばいい。
日本では医者と付き合うのは簡単だが、結婚まではなかなか進展しないと聞く。
これは日本では「出会い」があまりに日常的で、結婚に至るだけの感動が不足しているからだ。ということは、海外で衝撃的に出会えば結婚出来るかも、というのが今回のテーマなのだ(ずいぶんと引っ張ったが、これは今回の情報がとても重要なせいだ。決して材料が少ないわけではないので、心して読むこと)。
何年も長期旅行していて、ある決まった時期に医者の卵によく出会うことに気付いた。
僕の調査では、医者の卵は医師国家試験が終わって合格発表があるまでの期間、旅に出るのが決まりだそうだ。そういえばLAの安宿「ホテル加宝」で、急に金廻りがよくなった不法滞在者がいたのを思い出す。
旅行でやって来た大阪大学医学部の女学生とSEXしたら、高価なプレゼントをどんどん送ってくるのだとか。これを総合すると、海外旅行中の医者の卵を旅先でつかまえてSEXすると案外簡単に結婚出来る(金になる)という、すごく役に立つ大理論が成り立つ。
ずっと勉強してきて性欲が押えつけられているので、彼らも海外では暴発するという誰にもわかりやすい理論だ。ただここで念の為に注意しておくが、医者と並ぶエリートの弁護士の卵を狙うのはハズレだ。
司法試験は合格率が低いので、へたな三流私大生に当たると、逆に司法試験浪人を一生養うことになる恐れもあるからね。さて医者の卵はどこにでもいるわけではないし、たとえいたとしても、まず知りあえなければ意味がない。
しかし世界は広いもので、医者の卵がたくさんいてすぐに知りあえる穴場がある。
医者の好きそうなちょっと知的な場所で、しかも日本人が多くなくて、安宿に同宿しても声をかけやすいところがポイントだ。その場所はNYやロンドンのような大都市ではない。
日本人が多過ぎるからね。
しかしアマゾン川やザイール川のリバーボートの上でもない。
医者の卵は恐がって、こんな病気だらけのところへは来ないのだ。もったいないけど教えることにしよう。
それは過去に東ローマ帝国の首都であり、オスマントルコの都でもあったアジアとヨーロッパの接点、モスクの尖塔が立ち並び、幾千年の謎が眠る旅人の憧れ、イスタンブールだ。
ここに特定の時期に行けば医者の卵だらけ。
つかまえるのも簡単で、トプカピ宮殿・聖ソフィア寺院・ブルーモスクのあるスルタンアフメット地区の安宿街に行くだけだ。お薦めはエリットホテル、ここは客を選ぶので医学生が多い。
金のないひとはもっと安いモーラに泊まって、エリットの一階のジュウタン屋を覗くのがいいだろう。近くのロカンタ(トルコ風レストラン)で一人で食事をしている日本人がいたら「ひょっとして医学部の学生さん?」と声をかければすぐ友達になれる。
僕は一日に5人見つけた経験がある。
このアイディアは女医の数が増えている現在では男女兼用に使える。
さっそく実行に移してもらいたい。今年の医師国家試験は3月16日と17日、合格発表は4月19日だ。
この文章を読んだらすぐ、迷わずにイスタンブールへの飛行機に乗れ!
一生楽に暮らすためのメシの種が君を待っている(はずだ)。(スーパーニューズマガジン「GON!」1996年4月号掲載)
kenichiro.nishimoto(c)1996 (注意)イスタンブールの安宿「エリットホテル」は一階の飲み屋がうるさくて夜眠れないこと、「モーラ」は改装されて宿代が上昇したことに気をつけてください。これは、1996年秋に僕自身が確認しました。
「みどりのくつした氏とは」
インティファーダの中、アレンビー橋を渡ってイスラエルへ入り、革命政権下のニカラグアへ歩いて国境を越え、チリからアルゼンチンへ徒歩で雪のアンデス国境を越えたチョー百カ国世界旅行者。世界旅行者協会会長。謎の中年男。