《死ぬまで学生でいる方法》

もうそろそろ学生を卒業して、社会人になる人も出てくる時期だ。
不況で就職先がない人もいるらしい。

が、「一度就職して会社を辞める人に比べれば回り道をしないだけ得をしている」と考えると、少しは気が楽になるだろう。
まあ、気が楽になったところで惨めな境遇に変わりはないけどね。

しかし世の中は気分の持ちようなのだから、なんでもいい方に考えた方が得だ。
ところで最近の学生は勉強もせずに、ほとんど社会人と変わらない服装をして遊び歩いている(その逆もまた真なり)。

だから、学生と会社員の見分けがつかない。
唯一見分ける方法は学生証を見せてもらうことだろうか。

キャバクラなんかで学生証を見て女の子が現役の女子大生だと思うと、3倍ぐらい興奮出来るかもしれない。
まあ、それもあんまり当てにならないと思うんだけどさ。

さて今回は「死ぬまで学生でいる方法」という、ありがたーいお話。
耳の穴かっぽじいてトイレの後ならよく手を洗って、神棚にかしわ手を打って読むように。

この話は僕がロンドンのインターナショナルハウスという有名な語学学校で、
イギリス人でも合格が難しいというケンブリッジのCPE(ケンブリッジ英検特級)を取ったことに始まる。

試験が終わったのがクリスマスの前。
パリに行こうと考えて、そのころビクトリアステーションの近くにあった学生旅行社に安い切符を買いに行った。

するとその旅行社では国際学生証があれば学生料金で切符を売るという話だ。
このときはCPE受験の短期特別クラスにいたので学生証は持ってなかった。

が、ちょうど語学学校付属のパブでビールを飲むための証明書を持っていた。
それは学生証ではないのだが、学生証のようにも見えた。

それを見せるとあっけなく国際学生証(ここからISICと呼ぶ)が取れた。
たいして期待していなかったが、このISICはヨーロッパ中近東アフリカでは非常に効果的。

博物館・美術館・史跡の入場料は大幅なディスカウントだし、航空券もどんどん安く買えた。
学割料金の表示のないところでも、窓口でISICを出すと、安くなるのが不思議だった。

これはヨーロッパなどでは大学生がまだ少数の特権階級で、尊敬されているのが理由だと思われる(日本とは大違いだよね)。
そのあと、アフリカやヨーロッパを旅行し、アメリカに渡ったころに一年のISICの有効期限が切れた。

新しい学生証を手に入れたいと考えながら、ニューヨークのタイムズスクエアを歩いている。
と、ウインドウにいろんな証明書を貼りつけている店を見つける。

昔、赤坂プリンスホテルで働いていたという日本語ぺらぺらの口の達者な韓国人のおじさんに聞くと「学生証も作りますよ」とのこと。
最初は26ドルと言われたが、少し値切って20ドルで2年有効なコロンビア大学の学生証を作ってもらった。

しかしこの学生証には裏に「お土産ですから使ってはいけません」と英語で大きくプリントしてある。
おじさんは僕にシールを渡して、「このシールを貼ると、裏の注意書きが隠れてしまいます。本物に見えるので、それはしないで下さい」と念入りなアドバイスをくれた。

だからそのアドバイス通りに、僕は34丁目のスローンハウスYMCAの自分の部屋に戻って、裏にシールを貼って眺めてにっこりした。
この学生証にはまだ表にも novelty purposes only(お土産)と書いてある(しかし、なぜかこの文字はぼんやりとしていてはっきりと読めない)ので、アメリカ国内でそのままは使えない。

それは僕もよくわかっていた。
でも英語がよく通じない場所なら十分有効なはずだ。

そこで僕はこれをメキシコシティはソナロッサのSTA(学生旅行社)に持って行き、無事本物のISICを入手した(手数料10ドル)。

このあとも中南米、太平洋諸国、オーストラリアからアジアへと旅を続けた僕はバンコクでもこの学生証を使って正規のISICを作り、日本に帰る釜関フェリー(日本では関釜フェリーと呼ぶ)の料金まで学割にしたものだ。

ところでこれだけの話なら、それで終わってしまう。
まだ話には続きがある。
実は、僕はこのISICを日本国内でも使っていた。

つまり、僕は日本のプール、映画館、美術館、博物館に学生料金で入っていた。
たまには学生証を見せて、女の子にも乗っていた(??)というのは嘘だが、なにかの理由で学生のふりをしたい人には使い道があるかもしれない。

「でも、ニューヨークへ行って学生証を作るなんて出来ないよー」という貧乏人諸君はバンコクのカオサン通りへ行けば、道端で看板を出してIDカードを売っているから利用するといい。
最近は80から100バーツ(400円弱)で買える。

バンコクに行く気もない人はこのコラムを読んでて欲しくない(これは旅行のお話なんだからさ)んだけれど、特別な話を教えてあげるね。

日本でISICを作るには「学生証のコピー」があればいいんだよ。
コピーってことはさ、本物を見せなくていいから、友達の学生証を借りて作れるかもしれないね(もちろん僕はこういうことを
勧めているわけではないことに注意してね)。

ISICは、作った翌年の3月まで有効。
1月に作れば3月に卒業しても、1年間は学生のままだ。

(スーパーニューズマガジン「GON!」1996年5月号掲載)

kenichiro.nishimoto(c)1996

「みどりのくつした氏とは」

ロンドンとLAで英語、パリとナイロビでフランス語、バルセロナとグアテマラでスペイン語を学んだ、チョー百カ国世界旅行者。パソコン通信ニフティサーブの旅行フォーラムでも人気沸騰活躍中。世界旅行者協会会長

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