《イタリアは原宿だったりして…?》

チュニスからローマへ、卒業旅行も終わろうとする3月末に飛ぶには、非常に深い理由がなければならない。
だって、有名な「世界旅行者」の僕が北アフリカからヨーロッパへ、たかが地中海を越えるのに飛行機を使うというめちゃんこ楽な旅をしたのだからね。

まあ世の中に百か国以上を旅行したと自慢する人は腐るほどいる(ま、ほとんどはウソだけどさ)が、(万が一本当だとしても…)飛行機で入国してタクシーを使ってシェラトンホテルに泊まるという簡単な旅行なら子供だってできる。

僕ほど高度なレベルになると、もちろん国境は歩いて越える。
国境が川や海で歩くのが無理な時は、当然泳いで渡る。
飛行機は使わない。

僕は「世界旅行者」なのだから、飛行機に乗るのは航空券を買えるだけの金を持っている時だけだ(オイオイ)。

モロッコのマラケシュにあるジャフナ広場で、世界中を旅している大金持ちで、暇つぶしにCIAとKGBのエージェントをしているという、誰が考えても絶対身元確実で信用出来る日本人に出会った。
大阪でタコ焼き事業で成功したのだそうだ。

その絶対信用できる人が言うには、「イタリアは卒業旅行の日本人女子大生でムレムレだ。ローマのスペイン階段には胸に番号札を付けた女の子が並んで、その番号を呼びさえすれば連れ出すのは自由だ」とのこと。

タイの売春クラブに似ているが、非常に納得出来る話だ。
そこで本当なら地中海を泳いで行くところを、無理に急いで、飛行機を使ってイタリアへ入った。

ローマで宿を決めると走ってスペイン階段に向かう。
が、やはり遅かったのだろう、胸に番号を付けた女の子はいなかった。

がっかりしてテルミニ駅(あの「終着駅」)に行くと駅の通路横にあるカフェに日本人らしい女の子が一人でいるのを見つけた。

バルセロナで長くスペイン語を勉強していて、半分ラテン系の人間になっていた僕は、イタリアで女の子を一人にしたままでは悪い気がして、当然話しかける。
すると簡単に一緒に夕食をすることになった。

ワインを飲みながらシモネタを連発するとノリがいい。
離婚したばかりの女性で「ヨーロッパでは食事の後はSEXするのが当然よ」との2人の合意が簡単に成立する。

しかしうれしがってがんがん飲んでいたら、ワケがわからなくなって、翌朝起きたら一人で寝ていた(じっくり調べてみたが、ぽこちんにも変化はなかった)。

がっかりして、一人寂しく中華料理店に入ると、日本人の女の子が2人がいた。
席をたって、話かけて、一緒のテーブルに着く。

ロンドンの有名な音楽学校の留学生で、休暇で来たという。
誰も聞いたことのない(自分でも知らない)アフリカの珍しい話をして、これも非常に盛り上がったが、割り勘にするようにボーイに言うと、ボーイが僕をにらんでいた。

このテルミニ駅近くにはジプシーの子供たちがひったくりをする場所があって、何度通っても僕を見かけるたびに走って寄ってきた。
最後には友達になってしまったが、僕はいい練習台に使われていたようだ。

それが面倒になって、ローマから鉄道でフィレンツェへ。
フィレンツェではドゥオモ(大聖堂)前で日本人の女の子たちをを捕まえ、やはり割り勘で中華料理を食べた。

ピサ、トリノ、ミラノを経由してベニスでは運河そばのカフェで、ベローナでは野外劇場で、日本人の女の子を簡単にゲットした。
イタリアにはたった10日しかいなかったが、そのうち8日間は日本人の女の子と一緒に飯を食っていた。

しかし結局、誰ともSEXはしなかった…。

というのは、僕のおじさんが「すき焼きの本当の通は肉よりも、肉の味のしみ込んだ野菜を食べるんだよ」と教えてくれていたからだ。

このイタリア旅行のころは僕はこの理論をSEXにも当てはめていた。
SEXするより、女の子とぐっとディープで赤裸々な話をしている方が本物だと思いこんでいた。

ところが最近、おじさんが箸ではさんだ野菜を落としたら、野菜の間から肉が出てきた。
肉を包んで隠しながら食っていたらしい。

これ以来、また女の子とSEXすることにしたので、女性愛読者のみなさん、安心して下さい。

今年2月に「世界旅行者協会」のI嬢が南回りでローマへ飛んだ。
彼女は「外国人(日本人以外ならなんでもOK)と結婚する」というはっきりした目標を持っている、とても真面目な女の子だ。

ほとんど毎日、会長である僕に絵ハガキで報告を送ってきたが、やはりイタリアでは毎日男に声をかけられて、家に招かれ、食事を一緒にした。

しかし英語を必ず「ドゥーユー」で始める馬鹿や格好悪いジジイが多かったそうだ。
この報告からは、イタリアではだれでもナンパするのが常識らしい。

そう思っていたところに、バヌアツからの絵ハガキ以来行方不明だった同じく協会員のT嬢から手紙が届いた。
バヌアツから帰ってすぐにイタリアへ飛び、現在フィレンツェで染色の勉強をしているとの近況の後に、「イタリアは同性愛者が多くて、ゲイとレズだらけ。敬虔なカトリックというのは嘘ばっか。かっこいい男はゲイか超いい女付き、住むのは最低の国」と書いてある。

アレレ、つまり、イタリアではかっこいい男や女は、すでに超かっこいい相手がいるか、同性愛者なのだ。
かたっぱしから日本人の女の子に声をかけていたのは、女にあぶれたモテない男たちだったのだ。

これは日本中のド田舎者が集まってカッコ付けてナンパしあっている東京のド田舎、ド原宿にそっくりだね。

でも逆に言えば、めちゃカッコ悪い日本人男性でも堂々とナンパ出来る場所として自信を持って推薦しておこう(世界旅行者先生を見習え!)。

(スーパーニューズマガジン「GON!」1996年7月号掲載)

kenichiro.nishimoto(c)1996


「みどりのくつした氏とは」

カトマンズで日本女性の麻薬施設入院、ブエノスアイレスで密入国、ナイロビで友人の結婚問題を相談、世界一周旅行中にパスポートをカイロとキトで増補、パリで合冊した在外公館の人気者。世界チョー百カ国の個人旅行者。世界旅行者協会会長

[次のエッセイを読む][目次へ]