《ケープタウンにて》


【ビクトリアワーフショッピングセンターからテーブルマウンテンを見る(1996)】

ナイロビから南へ、バス、水中翼船、自転車、丸木船、さらに泳いだり歩いたりして国境を越え、ケープタウンへ着いた。
港の英国風パブで地元のキャッスルビールを飲みながら書いている。

テーブルマウンテンのケーブルウェイは風が強くて今日も動かなかった。
ケープタウンは冬で、毎日雨が降っている。

さて、「世界旅行者」の僕がケニアから、わざわざ陸路でアフリカ南端まで来るからには立派な理由があるはずだと思う人もいるだろう。
もちろんその通りで、実は「旅行国数を百以上にするため」だ(ナーンダって言っちゃダメ)。

「世界91か国の旅行者」では(いくら正直でも)納まりが悪く、なんとなくお尻のこそばゆい思いをしていた。
東京でかわいい女の子から「なぜ百か国じゃないんですか?」と恐れていたことを口にされるともうどうしようもない。

地位も財産も名誉も(まあ、そんなものはもともとないが)すべてを投げ捨てて旅に出たというわけだ。
権威ある「世界旅行者協会」の定義によると、本格的な旅には3つの条件がある。

まず「一人だけ」で旅に出ること。

僕は旅先で日本女性や外国人旅行者(日本人の男性旅行者は話しても退屈なので避けることにしている)と盛り上がってもすぐ一人に戻る。
他人と一緒にいるのはわがままな本格的個人旅行者にとっては無理があるのだ。

特に男が2人でベターッと旅をすると、「ゆっくりマスをかけない」という大変な問題が起きる。
一年ぶりに入手した日本女性のヌードグラビアをどちらが先に使うかでケンカ別れをした悲惨な例を僕はよく知っている(自分のことなので)。

また「片道切符」を使うのも重要だ。

余分な切符があると思い切った行動が取れず、旅のスケールが小さくなる。
前回ケニアへ来た時、アテネで買ったカイロ経由ナイロビ往復の切符があった。

そのせいで、あっけなくアフリカを出てしまった。
僕の旅行地図でアフリカに大きな空白部分があるのはそのせいだ。

最後に大切なのが「旅行期間を決めない」こと。

帰国予定を決めていても旅の途中でどうでもよくなってしまうのがホンモノだ。
だが、中には「一年で世界一周」などという無謀な計画を立てて日本を出て、近場のバンコクやカルカッタで沈没する若者(バカ者)が多い。

旅に出てすぐに旅行の大変さに絶望して、なげやりになってしまうせいだ。
でも帰国予定を決めず、海外で野垂れ死にをするつもりでいると気楽になり、2年半ほどあれば一応世界は回れることになっている。

「世界旅行者協会」からも東回りと西回りで一人づつ世界一周に出ている。
僕のアドバイスに忠実に従って日本を出発以来3年を過ぎたが、2人とも行方不明だ。

多分南米あたりで幸せに暮らしているのだろう。

さて、今までのアフリカ旅行で気付いたことを報告しておこう。

ナイロビはますます危険になっている。
ビザを取るために「イクバルホテル」に泊まっていた十日間で、近くで3人が殺された。

とは言っても、このうち一人は通行人が協力して泥棒をよってたかって殴り殺したものだ。
このように正義感の強い人も多いので安心していい。

ナイロビはもともと暑くはないのだが、今回は小雨が降り続いていて体調がおかしくなった。
「ひょっとして妊娠したのかな…?」と悩んでいたが、やはり気候のせいだったらしく、タンザニアに入り、インド洋に浮かぶザンジバルの陽光の下で泳ぐとすぐに元気になった。

現在のザンジバルはヨーロッパからの若者の多い大観光地だ。
声をかけてくるビーチボーイの言う通りにしていれば、宿も観光もすべて無難にセッティングしてくれる。一人で動こうとすると面倒だけれどもね。

東アフリカで目についたのが、スワヒリ語ぺらぺらの日本人の若い女性たちだ。
バリのビーチボーイや六本木の外人を卒業して、原産地のトレトレの黒人に目をつけ始めたようで頼もしい限りだ。

これは来年のトレンドになると、今から予測しておこう。

マラウイは国際援助団体だらけの国で、日本の頼りない協力隊員とも話をしたが、それだけのつまらないところ。
モザンビークは有名なテテ回廊を通過しただけ。

さて最近旅行者の間で人気の高いジンバブエだが、ハラレやブラワヨという都市に滞在するかぎり安全で物価も安い。
でもわざわざジンバブエで生活してなにか意味があるだろうか?

ジンバブエで観光地に行こうとすると、交通手段や宿が問題となる。
特に有名なビクトリアフォールズは宿が高く、慢性的に不足している(僕は歩いて国境を越え、ザンビア側でやっと宿を見つけた)。

南アフリカに入るとヨーロッパ風で旅は楽になるが、それなら本物のヨーロッパの方が面白いだろう。

ケニアから南アへのこの陸路ルートは旅行が面倒で物価は高く食事はまずく、しかも見るところが少ない。
また冒険旅行と自慢出来るほど難しくもない。

わざわざ来るところではない、と親切な(正直な)アドバイスをしておく。

僕はこれから北へ向かう。

次はおそらくナミビアだ。

その後どこへ行くのか、いつまで旅が続くのか、それはもちろん未定だ。

(スーパーニューズマガジン「GON!」1996年12月号掲載)

kenichiro.nishimoto(c)1996


「みどりのくつした氏とは」

タンザニア、マラウィ、モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、南アフリカ、ナミビアを加えこの時点で世界98か国の世界旅行者(このあとも旅を続け現在はチョー百カ国世界旅行者)。旅行貧乏のため養ってくれる金持ちの女性(女子大生希望。人妻可)募集中。世界旅行者協会会長

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