《旅に出る前には、部屋の掃除をして、神に祈る》 [ home / list / next ]

 

さて出発の日が来た。
僕が海外旅行に出る日にいつもすることは、とにかく朝早く起きて、まず部屋の掃除。

なんで出発の日に部屋の掃除をするのかというと、僕は、ギリギリにならないと何もしないという、究極のぐーたら人間だからだよ。
部屋を出ようとすると、「あっ、ここはちょっと掃除しておいた方が良いかな(確か一年以上、掃除してないし…)」と、思いつくところがたくさん出てくるものだ。
まあ、日々の生活の中でも、もちろん、掃除しなければと思わないことはないのだが、ただ実行しないだけだ。

その理由は、僕が中学生の時にテレビで大人気だった、「ひょっこりひょうたん島」という人形劇の、ドン・ガバチョという声の大きな政治家が、「あしたもあ〜れば、あさってもあるさ、いつまでたっても明日がある、ドンドンガーバチョ、ドン・ガバチョ♪」と(確か)歌っていた言葉が、頭に叩き込まれてしまったからだ。

英語でも、「明日できることを今日やってはいけない(Don't do today what you can do tomorrow!)」という有名な人生訓があったのを記憶している。

読者は知っていると思うが、僕は、2年8ヵ月も連続で世界一周をやった世界旅行者だ。
2年8ヵ月もほとんど毎日ホテル暮らしをしていたのだが、誰でも理解できるように、旅行者はホテルの部屋を自分で掃除したりしない。
つまり、僕は2年8ヵ月の間、掃除というものを全く知らずに生活してしまった。
もともと掃除をするのが嫌いなぐーたらなのに、そのうえ、身体が掃除をしない生活に慣れ親しんでしまったのだから、掃除という単語は、僕の日常生活の中には見つけられない。

しかも、僕はもともと性格が悪いので、友達が少なく、友達が家へ来ることもない。
いったいぜんたい、誰も来ない部屋をきれいにするなんて、馬鹿のやることだと思いませんか?

時々、きれいな女の子とお酒を飲んで遅くなった時、女の子に「西本さんのお部屋に泊っちゃおうかしら…(うふっ)」と、言われることがあるが、僕はそのとたん、自分の部屋の状況を思い出して、酔いが覚めてしまう。
だから、僕が部屋に女の子を入れないのは、ただ部屋が汚いからだけで、別にお付き合いするのがいやなわけではない。
そこのところ、十分にご理解いただいて、「部屋に泊る」などの恐ろしい言葉を出さないように注意して下さい。

というわけで、出発の日になると、部屋を掃除し始めるが、もちろん時間がないので、途中で止めてしまう。
汚い部屋というものは、掃除し出すとキリがないので、途中であっさり止められるという意味でも、出発の日の掃除というのは、オススメです。

さて、長期の海外旅行に出るときに、ちょっと心配なことは、もし自分が旅先で死んでしまった場合、誰かが部屋に入って来て、遺品を調べることだよね。
その時に、もし恥ずかしいものが出てきたら、なにか言われるのではないか…、これは、だれしもが持つ恐怖だろう。

僕の友人の女の子は、ヨーロッパ旅行に出るその朝に、僕がロサンジェルス土産としてプレゼントしたバイブレーターを捨ててしまったとか。
「私がいつもバイブを使っていると思われると、お父さんに恥ずかしいから」という。
でも、そんなことを気にしていたら、人間、何も出来ないよね。

人間なんてさ、誰でも恥ずかしい部分を持っているものだよ。
長く生きているということは、長く恥をかきつづけているだけだ。

思い出すのが、僕がある女の子の悩みの相談に乗った時、悩みの内容を聞く前に、「まあ、みんな恥ずかしいことばかりやって生きているものさ。だから、悩むことはないんだよ。誰でも恥ずかしいことばかりやってるんだから。みんな同じなんだよ」と、やさしくアドバイスしてあげたときのこと。
この言葉を聞いた女の子が、キリッと顔を上げて、僕を見つめて、「わたし、恥ずかしいことなんかありません!」と言ったのは、これは、ちょっと恥ずかしかったね。

まあ、死んでしまえば、あとは野となれ山となれ、こっちの知ったことじゃないよ。
残された人たちで、勝手にやって下さい!
わしゃ知らん!
こう思えてはじめて、長期海外旅行に出られるわけなのだ。

正直、海外旅行に出る前の準備というのは、数え上げたらきりがない。
完璧な準備をしようとしたら、10年くらいかかるかもしれないよ。
ということは、20歳で旅に出ようと考えて、出発できるのは、30歳だ。
しかも、これは、20歳の時の準備で、30歳になればまた、30歳の時の準備が必要となり、その準備が終わるのは40歳。
ま、これを続けていくと、一生旅には出られないことになる。

だから、部屋が汚くったって、部屋に恥ずかしいものが置きっぱなしになってたって、いいさ。
と考えて、心が落ち着いたので、僕は、掃除をはじめて、10分ほどで止めた。

 

さて、その次に、旅行に持って行く荷物をまとめ出す。
なぜ前日にきちんと揃えておかないかというと、まとめておいても、入れ忘れたものがあるのではないかと心配になって、もう一度チェックしようと、荷物を広げてしまうからだ。
どうせ広げるのなら、まとめて置かない方がわかりやすいからね。

ちょっと神経質すぎて病的かもしれないと思うのだが、僕は外出していて、台所のガスを消したかどうか、ドアにカギを掛けたかどうか、急に気になって、確認するために戻ってくることがある。

一度などは、池袋で、人と会う前に、突然、ガスを消したかどうか気になって、不安で不安でたまらなくなって、港区の家まで、飛んで帰りたくなくなったこともある。
ただ、その時会ったのが、超美人の弁護士妻だったので、「家なんか燃えてもいいや!」と、すぐに考えを変えてしまった(燃えてしまったと覚悟して戻ってみると、何ともなかったが)。

これと同じで、まあ、荷物の中身は確認していても、必ずなにか忘れているものだから、それは予想しておいて、気にしないことにすればいい。

神経質で、いろいろと気になる人には、部屋を出るときは、指差し確認をすることを勧めておこう。
つまり、「電気を消した!水道とめた!ガスを止めた!」そして、ドアのところで、「カギを掛けた!」ってね。

これは、僕のように忘れっぽい人は、旅先のホテルの部屋を出るときも、ノートにチェックリストを書いておいて、それを見ながら、指先し確認することを勧めておきます。
「パスポート!、財布!、トラベラーズチェック!」なんてね。
こうすると、忘れることは少なくなると思いますよ。

ただ、とても忘れっぽい僕は、よく、この「指差し確認をすること」自体を、忘れてしまうけどね。

 

そして、部屋を出る直前に、僕は神に祈る。

決して、「この旅が無事でありますように。何事もなく帰ってこれますように」とは祈らない。
それは、運命に逆らっているかもしれないからだ。

僕はこう祈る。

旅に出たら、なにがあっても、すべて、それは神の定め!

dakar01(2001/10/15)

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