《旅では、まず無事に飛行機に乗れるかどうか、実は、それが一番問題だ》 [ home / list / next ]

 

僕の乗る飛行機は、アエロフロートのSU576便、成田を午後1時に出て、モスクワへ現地時間の午後5時25分に着く予定だ。

午後1時出発なら、僕は、2時間前の午前11時にチェックインする。
東京タワーの見える都心の港区に住んでいる僕のところから、成田空港まで、約2時間かかるので、家を出るのは午前9時。
しかし、午前9時では、なにか起きたときに間に合わなくなる可能性があるので、僕は余裕を見て、8時には家を出る。

実は、海外旅行の一番重要なところは、無事に飛行機に乗れるかどうか、ここに尽きている。
飛行機にさえ乗ってしまえば、日本国の出国スタンプをパスポートにポンと押してもらいさえすれば、一応海外旅行として通用する。
海外旅行になってしまえば、飛行機が落ちても、急病にかかっても、話としては成立するのだ。

しかし、海外旅行に出るつもりで、家を出たが、空港へ行く途中で、何らかの問題が起きて、飛行機に乗りそこなう人が非常な数いることを、普通の人は認識していない。
また、普通のガイドブック、旅行本も、この一番大切なことを書いていない。

確かに、海外旅行に出る飛行機に乗り遅れた、乗りそこなったという話は、あまりに悲しすぎて、とても人に語れるようなものではないよ。
聞いた人も、その場で何といったらいいか、反応に迷うだろう(もちろん、本人がいなければ、大笑いするに決まっているんだけどさ)。

航空会社がオーバーブッキング(定員以上に予約を受けること)するのは、もちろん、予約を入れておいたのに用事が出来て、意図的にやってこない人のことを考えていることもあるが、実は、飛行機に乗ろうという強い意志はありながら、乗り遅れてしまう、とんちき諸君の存在もあるのだ。

たとえば、ギリギリでチェックインすると、席をアップグレード(エコノミー席をビジネスクラスに)してくれるという話を信じて、わざとギリギリにチェックインする、大人になってもいつまでもオトギバナシを信じている、貧乏なくせに宝くじをまとめ買いする、世間知らずの人たち。

予約をしているのに早く行く必要はない、早く行くのは旅慣れしていない、と考えてわざと遅くにチェックインカウンターにやってくる、実は、定職がないのに、まるで仕事が忙しいような見栄を張りたがる、「旅行通」「旅のベテラン」を勝手に自称する、実は、旅のド素人諸君。

海外旅行では何が起こるかわからないが、海外旅行に出る寸前の、自宅から空港までも、もちろん何が起こるかわからないんだよ。

たとえば、現在の日本では、不況でリストラされて、電車に飛び込み自殺する中年男性がとても多い。
そういう人が、君が海外旅行に出ようと、電車を待っている目の前で、君が乗ろうとしたその電車に飛び込んだらどうなるだろう?
当然電車は動かなくなる。
つまり、空港まで時間通りに到着できないわけだ。
だから、こういう場合、自殺しそうな雰囲気の人を見つけたら、耳元で「あちらがいいですよ」と、逆方向のホームから飛び込むように勧めるのが効果的であろう。

また、朝の電車に乗ると、通勤客で混み合っていることも多い。
日本の通勤風景といえば、つきものなのが痴漢行為だ。
しかし最近は、おちゃめなOLさんや女学生のみなさまが、まじめなサラリーマンを、痴漢として捕まえる遊びも流行っているとか。
だいたい、通勤時間に海外旅行用のバックパックを持って、嬉しそうな顔をして、電車に乗ってくる旅行者ほど、旅好きのOLさんに嫌われる存在もないだろう。
うれしそうなバックパッカーを見ると、OLさんは、「私は仕事があるのに、海外旅行に行くなんて…。こんなやつ、海外旅行に絶対に行かせてなるものか!」と頭に血が上って、君の手首をつかんで、「痴漢でーす!」と、大声を上げることも、絶対ありえないとは断言できない。
こうなると、飛行機に乗り遅れるばかりか、海外の代りに、拘置所行きになる。
まあ、拘置所も、行き先がちょっと変わったところであることには、違いないけどさ。
出来るだけ、拘置所なんかには行きたくないものだ。
こういう事故を避けるためには、「海外旅行なんか出たくないのに、無理矢理行かせられてしまうんだよ、運が悪いな〜」という雰囲気で、、陰気そうな顔をして、人生に疲れた感じで電車に乗るのがいい。

ねー、空港に着くまでの電車に乗るのだって、いろいろと旅のテクニックは必要なんだよ。

さて、東京から成田までは、僕は上野から出る、京成スカイライナーを使うことにしている。
これで約一時間。
京成スカイライナーは、京成上野駅から成田空港へ向けて、40分間隔で発車している。
料金は1920円で、席はリクライニングするし、小さなテーブルも付いているし、そんなに混んでいないので、たいていは二席を一人で占領できて、なかなか気持ちがいいよ。

40分間隔だと、下手をすると、40分もつぎのスカイライナーを待たなければならないが、列車の予約はしない。
予約をすると、その予約に合わせて動かなければならないので、かえって面倒なのだ。
僕の友人は、ちゃんと予約をして家を出たところ、予約済みの切符を置き忘れていて、わざわざタクシーに乗って、あわてて取りに帰ったことがある。
京成線には、特急列車もあるが、これだと成田空港までたったの1000円だ。
スカイライナーと比べて、特に遅いわけでもないので、本当に急ぎの時は、特急列車に乗ってもいいのだからね。

京成の特急列車のいいところは、座席が指定されていないので、同じタイプのバックパッカーを見つけたら、そばに座って、話し掛け、楽しい話が出来るところだ。
旅の話をしたい人は、こちらの方がオススメかもしれない。
しかし、僕は、最近は、歳を取るにつれて、だんだん一人の時間を大切にするようになったので、スカイライナーでの、旅に出る前の孤独な時間を大切にしている。

まあ、普通は、電車の飛び込みにもあわず、痴漢容疑で逮捕もされないもので、僕は、10時前には、アエロフロートが利用する成田空港第二ターミナルに到着してしまった。

アエロフロートのチェックインは、第二ターミナルの出発ロビーに並ぶDカウンターになっていたが、表示を見ると、SU576便の前のSU588便のチェックインをやっている。
SU588便は、同じくモスクワ行きで、少し早い時刻に、モスクワシェレメチボ2空港に到着するのだ。

だったら、こちらに乗った方がいい、と考える人もいるだろう。
僕も、前回、ナイロビに飛んだ時、モスクワのトランジットホテルに滞在する時間が長い方がオトクだと、セコイ考えで、わざわざ早い便に乗ったことがある。
しかし、ロシアという国は、乗客を荷物と考えているので、何かとまとまっていた方が扱いがわかりやすいものなのだ。

僕はその時、たった一人のナイロビ便の客だったので、一人だけ、長い時間待たされたあとで、わけのわからないホテルへ送り込まれ、黒人乗客といっしょにナイロビ行きの飛行機に乗せられたことがある。
すると、そこには、ちゃんと他の日本人旅行者諸君が乗っていたものだ。
つまり、みんなと同じ遅い便に乗っていれば、ナイロビ行きの人たちといっしょに移動できたわけだよね。

とにかく、わけのわからない場所では、誰か他の人と一緒にいた方が、間違いがないってことだ。

チェックインカウンターの表示では、SU588便だけだが、聞くと、僕の乗るSU576便もチェックインを受けてくれた。
アイルシート(通路側の席)を取り、バックパックを預けようと考えたが、預けた荷物は、モスクワで受け取ることなく、目的地のダカールまでスルー(自動的に載せかえられて、そのまま行っちゃうことね)だという。
アエロフロートのカウンターのお姉さんは、親切に、手荷物にした方がいいと、アドバイスをくれる。

海外旅行に出て、飛行機に預けたバッグが行方不明になると、これは、ちょっと困る。
だから、機内持ち込みにすればいいのだが、最近は、手荷物の大きさばかりではなくて、荷物の重量で文句を付けられることも多い。

前回バンコクへ飛んだ時は、エアインディアのカウンターの女の子に、「手荷物は5kg以内でお願いします」と言われ、手荷物にするつもりで一個にまとめていた、たった10kgちょっとのバックパックから、デイバッグを取り出して、バックパックをすかすかにして預けたこともある。

今回は、アエロフロートに乗るわけだが、昔、同じくアエロフロートでモスクワ経由、ナイロビに飛んだ時、バックパックを手荷物にして、機内持ち込みにした記憶がある。
アエロフロートは、手荷物の大きさの制限がゆるいのだから、今度も手荷物にすればいい。

しかし、さてこれが困った…。
実は、僕の愛用のスイスアーミーナイフをバックパックに入れてきてしまったのだ。
スイスアーミーナイフは、成田空港では、手荷物検査で、発見されて機長預かりとなるのが、今までの経験だ。

しかし、アエロフロートの機長が、一度預かったアーミーナイフを手放すだろうか?
経済状態の悪いロシアでは、アーミーナイフ一本でも、売れば生活費の足しになるだろう。
すると、手荷物にすると、アーミーナイフは、戻ってこない可能性が高い。

というわけで、僕は、バックパックをカウンターで預けることにした。
アーミーナイフを失いたくないために、バックパックを預けたわけだ。
しかし、待合い室で搭乗開始を待って、ビールを飲んでいた時、ふと思い出したことがある。

モスクワでは、預けられた荷物が開けられて、中身がどんどん抜かれるという話があったっけ!!

アーミーナイフを惜しんだために、バックパックの中身を失うことになるのか。
これじゃ、旅は最初から大失敗になっちゃうよ。

でもいいか、話さえ面白くなれば…。
でもイヤだよー。

いや〜ん♪

もういいや、お酒飲んで、酔っ払っちゃおう!
と、僕はさらにビールを買いに走った。

dakar2(2001/10/16)

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