《世界旅行者は行く気もないのに、マリ大使館にビザを取りに行く》

【写真】ダカールのマリ大使館と、その前のサハラ縦断してきたフランス人の若者のボロ車
僕はここで考えた、もし神が世界旅行者を見捨てたのなら何をやってもだめだ。
しかし僕は、いままでも何度もこういう絶望的な状況に追い込まれ、無事に脱出した経験が何度もある。

問題がおきたときは自分の力で解決しようとしてはいけない。
ただひたすら神の力にすがればいいだけなのだ。

僕はもう一度VISAカードをATMに挿入し、目を閉じて神に強く祈り適当に暗証番号を打ち込んだ。
するとアーラ不思議、スルスルっとお金が出てきた。

ところで、この話を頭から素直に信じて「なるほど!暗証番号を忘れたときは神様に祈ればいいのか」とノートにメモった君、そんな素直すぎる考え方では海外個人旅行はできないので、止めておいたほうがいい、と忠告しておきます。

この時出したお金が15万セーファーフラン、約2万5千円。
この金を握って急に元気が出た僕は、小汚い「ホテルプロバンサル」を出て鉄筋三階建ての「ホテルコンチネンタル」へと移った。

このホテルはエアコン、ホットシャワーつきで1万3千フラン(約2200円)だ。
昨夜眠れなかったので昼間からクーラーをかけてずーっと寝ていた。

だって町はひっそりとして、どうやら家庭内ですごす静かなお祭りで何にもすることないんだからさ。
翌日になると急にやる気がもりもりと沸いてきた。

旅で疲れたらとにかく身体を休ませるために寝るに限るよ。
しかしつまらない西アフリカから逃げ出す決意には変わりはない。

そこで考えるのは美人女子大生の外見純子さんのことだ。
そういえば外見さんにタクシー代の半分と電話代を払ってもらってないよ。

ということは「金を貸してある」といえるかもしれない。
ご立派な理論を立てた僕は、朝一番で独立広場にそびえる「SDIH」ビルの10階にあるJICAのオフィスへと突入した。

外見さんの知人の女性を呼び出し、ホテルコンチネンタルのカードを出して「外見さんに、一緒に食事でもどうですかと伝えてください」と話す。
するとこのJICAの職員は「そういえば、外見さんがあなたにお金を借りてると言ってましたね。ここでお支払いしておきます」と、あっさり金を払われてしまった。

外見さんは、僕と再会する口実として「世界旅行者さんにお金を借りているので、また会わなければならないの」と言ったに決まっている。
が、このJICAのお節介な女は二人の仲を裂こうとしているようだ。

この女に邪魔されたら女子大生さんと連絡がつかないと諦めた。
なんでもあっさりと諦める、それが人生のコツさ♪

そうなるとあとは何の用もないので、セネガルからヨーロッパへ脱出すればいいだけだ。
独立広場の周囲には旅行代理店がたくさん並んでいるのでそのひとつに跳び込み、ヨーロッパへの切符を調べる。

パリまでサベナ航空がブリュッセル経由で約5万円で飛んでいる。
ちょっと高いがエールフランスは毎晩パリへの便がある。

こういう風に脱出の手段が確認されたとたん、気分に余裕が出てきたよ。
いつでもパリへ逃げられる。

それならもう少し、ダカールを見てもいいさ。
しかし、ただダカールの町をうろうろしても、世界旅行者としての話のネタにはならない。

世界旅行者の話のネタとは、やはり海外旅行関係の、誰もが興味を持つものでなければね。
ダカールでみんなが興味を持つのは、隣国マリのビザを取ることだろう。

僕はもちろん、マリなんかに行く気持ちは失ってしまっている。
しかしマリに行かなくても、ダカールでマリのビザを自分で取るというのはこれはネタになる。

よーしまだ朝は早いのだから、これから在ダカールマリ国大使館へと突入しよう!
ガイドブックを見ながらマリ大使館へと歩くと、マリ大使館のビルは工事中になっていて大使館が存在しない。

でも大使館の移動移転は海外旅行をしているとごく普通のことだ。
だから本来ならまずダカールの観光案内所に行ってマリ大使館の現在の場所を確認するのだが、ダカールには観光案内所が存在しない。

観光客向けの地図でも売ってあれば、そこには各国大使館のリストが付いているものだがそういうものもない。
とすると非常に困るかというとそれがそうでもないんだよ。

実はマリ大使館が移動したとしても、マリ大使館があった場所で人に聞けば、大使館の移動先は簡単にわかるものなのだ。
だって毎日多くの人がやってきては同じことを聞くに決まっているのだから。

そこで工事のおじさんに聞くと、ずいぶん離れたところへ移転したようで、ガイドブックの地図からはみ出している。
3人くらいのおじさんたちが、タクシーを呼び止めて行き先を教える。

タクシーは1200フランと言うが、おじさんたちが、1000フランで交渉成立させてくれる。
うーん、最初の日とは違ってダカールの人たちもなかなか親切な、いい人が多いみたいだね。

タクシーはダカールの中心から離れて海岸沿いの道を西へかなり走って、マリ大使館へと到着する。
僕はすぐに大使館へと入り「観光ビザがほしいんです」とフランス語で叫んで二階の待合室へと駆け上る。

そこには4人の白人がすでに待っていた。
二人はベルギー人の中年男女、もう二人はフランス人の若者だ。

フランス語でビザ申請書を記入しながら、英語で話をする。
ベルギー人のカップルは、男性だけがマリへ行くそうで「今は普通の観光客は鉄道なんか使わないよ、列車で行くのは時間もかかるし危なすぎる」と言う。

彼はもちろん飛行機で、バマコまで行くそうだ。
まあ、僕はマリへ行く気持ちはないのだから、どうでもいいけどね。

フランス人の若者二人は、フランスから車でサハラ砂漠を縦断してやってきて陸路でマリへと進む計画だ。
フランス人にとってはサハラ縦断して、西アフリカを旅するのはひとつのパターンになっているらしい。

日本人がサハラ縦断、サハラ縦断と大冒険視するほど、たいしたものではないようだ。
マリの観光ビザ申請書に写真を2枚付けて7500フランを出すと、翌日の午後2時にビザが交付されると言われる(本来は2日後の交付らしいが、僕の行くところではいつも特別なことがおきるようだ)。

帰りは砂漠を縦断したフランス人のボロ車に乗り込んで、大統領官邸前まで送ってもらった。

【写真】ダカールのマリ大使館と、その前のサハラ縦断してきたフランス人の若者のボロ車
【旅行哲学】海外個人旅行には、英語とフランス語、スペイン語が出来ないとダメだ。もちろん僕は出来るけどね(笑)。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20070118