満員の4WDはニジェール川を渡って砂漠で壊れる@マリ

niger river
世界旅行者の第三弾「大人の海外個人旅行」「西アフリカ旅行記」から。
ダカール(セネガル)から鉄道でバマコ(マリ)へ入り、マリ航空でトンブクトゥへ到着し、4WDで脱出する話。

《道なき道を進む四輪駆動車は砂漠の中であっさり壊れる》

トンブクトゥを出発した車は最初は道らしい道を走った。
僕はこの車がどういうルートを取るのかさっぱりわかっていない。
トンブクトゥではフランス語も通じるが、現地の人たちは部族語を話すのでわけがわからないのだ。
もちろん今までの経験でマリの人たちを全く信用してないってことなんだけれどもね。
一時間ほど走ると目の前に川が見えてくる。
これはもちろんニジェール川だ。
するとここがトンブクトゥの外港コリウメのようだね。
車はそこで停止し、みんなが降りて川岸の食堂へ入ったりして時間を潰す。
僕はちょっとはずれに行って立ち小便をする。
ぼーっと川を見ていると、しばらくして小型のフェリーがやってきて車はそれに乗せられる。
乗客も一緒に乗って、すこし川を移動して対岸へ渡る。
コリウメには小型、中型の荷物を積んだ船が停泊していて、川岸沿いに小さな建物の並びが見える。
フェリーは20分ほどで向こう岸に着いたが、そこには船着場だけで、他には何もなかった。
ニジェール川といえば、スコットランドの探検家マンゴ・パークが命を掛けて川の流れの方向を調べに来たところだ。
フランス人のルネ・カイエが大冒険の末にトンブクトゥへたどりつき、泥の家だけだとヨーロッパへその報告を送ったこともある。
でも、ニジェール川は彼らと関係なく、ずっと流れ続けていた。
人生とは何か人が生きる目的とは何か、僕はニジェール川を見ながら深く考えることがあった。
ただちょっと考えると頭が痛くなったのですぐに考えるのを止めたが。
ニジェール川を対岸に渡って車は道なき道を走り始めた。
飛行機から見下ろしたときの感想と一緒で、この地域にはあちこちに雨季で満水だったときの名残の池があり、湿地帯になっているので、車は比較的乾いたところを選んで通る。
つまり右に行ったり左に行ったり後戻りをしたり、ぐるぐる大変な回り道をしていくのだ。
僕の心の中は「おいおい、水に囲まれたところに入ったら、どうするんだよ!」という不安で一杯だった。
が、そんな気持ちも徐々に薄れ「まあ、なるようになるさ、ならなければ死んでしまうだけだ」という悟りが作られつつあった。
僕たちが走っている地域はサハラ砂漠の南の端、砂漠とブラックアフリカのジャングルの遷移地帯、サヘルと呼ばれるところだ。
ここは砂漠の侵食で徐々に緑が砂に覆われようとしている。
だから完全な砂漠ではなく背の低い木がずーっと続いているのだが、その地面はほとんど細かな砂に厚く薄く覆われている。
で、全く道がないところを走っているかというとそうでもない。
よく見ると、砂の上にたくさんの車のわだちがある。
つまりここをたくさんの車が通行しているのだ。
問題はそのわだちが深くえぐれていて、同じところを通ると車輪が埋まってしまうこと。
だから車は以前の車輪のあとをよけるようにして進むのだ。
徐々にあたりが薄暗くなってくるとライトを点灯したが、そうなると突然目の前に木が飛び出してくることになる。
運転手はそれを右に左にハンドルを切って避けながら次々に通過していくのだ。
僕は前を見ながら、あまりの恐怖におしっこをちびりそうになった。
これではまるでゲームセンターで、ゾンビが次々に現れてくるのを打ち倒すような、瞬間の反射神経を試すゲームのようだ。
前方に深い砂があるとスピードを落として、車の屋根の上に乗っている少年の指図に従ってルートを決定している。
「これで一晩走って、無事に済むはずがない」と思ったとたん、車は大きくジャンプして砂に埋まった。
後進をかけて脱出しようとするが、タイヤが空回りする。
乗客は全員降りて、みんなで車を押してなんとか脱出する。
それが3回ほど続いたあと、ガタンと大きな音がした。
運転手と助手が車の下に入り点検したかと思うと、大きな部品を外して屋根の上に乗せた。
「車が壊れた」という声がする。
おいおい、こんなわけのわからないところで動きが取れなくなったのかい?
そのまま30分以上車のそばでただ砂の上に座っていると、真っ暗な闇の中を遠くから逆方向へ進む車のヘッドライトの明かりが近づいてきた。
【写真】ニジェール川@マリ
【旅行哲学】人間死ぬ時は死ぬ
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20070112