『世界旅行者は、ボロタクシーと睡盗を撃退して、魔都トンブクトゥへ飛ぶ』@バマコ/マリ

【ニジェール川(2001)】
タクシーから降りた運転手は、夜明け前の漆黒の闇の中で、道路沿いの建物のドアをたたく。
するとそこからさらに黒人が出てきて二人になった。
二人が相手では世界旅行者は戦えない(一人だって戦う気はないけどさ)。
しかたない、西アフリカで強盗にあうという話も、まあネタにはなるんだからと、あっさりと覚悟を決める。
だっていくら旅慣れていても、盗難、強盗を避ける手立てはないんだから。
僕だって、アメリカはサンディエゴのYMCAで盗難にあったことはあるんだし。
そろそろ強盗ネタも必要かもしれない。
ただ命をとられては話にならないので、おとなしくしていようと考える。
覚悟を決めてじっとしていると、タクシーのタンクを開けてガソリンを入れている雰囲気だ。
つまり道路わきのこの家は、ガソリンスタンドだったんだ(あー、よかった♪)。
思い返してみると、タクシーで客を乗せたあとでガソリンを入れるというのは、発展途上国では常識と言えば常識だった。
イランのシーラーズの町で拾ったペルセポリス遺跡へのタクシーをはじめ、「さあ行くぞっ!」と気合十分でタクシーに乗り込むと、そのままガソリンスタンドへ、というパターンも多かったっけ。
ガソリンを入れるならまだいい。
ベリーズからグアテマラへ国境を越えたところにあるメンチョールデメンコスという町からティカル遺跡への起点サンタエレーナへのバスに乗ったとき、バスは僕を乗せたままガソリンを入れたばかりか、そのままに自動車修理工場へ入ってしまったこともある(1時間以上待ったっけ)。
もっとひどかったのが、LAからNYへ飛んだタワーエアという航空会社の飛行機で、僕たち満員の乗客を乗せたあとで飛行機の修理を始め、4時間も機内に閉じ込められたこともある(ま、無事にNYへは到着したが…)。
ちなみにこのタワーエアは、そのころインターネットの航空会社ランキングで最低にランクされていた。
現在は潰れてしまって、誰もそれを不思議に思わないというすごい会社だった。
タクシーは、ガソリンを入れた後、またガタゴトと動きだした。また途中で理由もなく止まったりしたが、何とか7時前に、空港へ到着する。
空港はチェックインカウンターが一列に並んでいるだけのシンプルなものだった。
チェックインを始める前に税金を支払らう窓口へ並ぶ。
税は3種類もあって、国内線の空港税1500フランを入れてその総額が1870フラン。
税金支払いの窓口の列で、僕の前に育ちのよさそうなアメリカ人の若者がいたので、話しかける。
彼の金持ちのおじさんと一緒にモプティへ行くのだとか。
若者はチェックインカウンター前のイスで、そのおじさんと話をしていたが、急に立ち上がって振り向いた。
彼の横にはだらーんと横になって眠った感じの黒人がいて、彼が若者のポケットに手を入れたのだ。
若者は黒人に向かって、身構えた。
しかし黒人はあつかましくも眠った振りを続けている。
これではもちろん捕まえるわけにはいかない。
ポケットに手を入れたのは誰も証明できないのだから。
しかもこの黒人泥棒は眠っている振りをしつづけているのだから。
なるほど、この黒人は眠ったままの振りをして盗む「睡盗(すいとう)」の術を使っているのだ!
この黒人は僕がそこを立ち去るまでずっと眠った振りを続けていたので、まだがんばっているかもしれません。
読者もバマコの空港で眠っている黒人を見たら、注意してください。
うーむ、空港へのタクシーは途中でガソリンは入れるは調子は悪いは、空港の中には睡盗はいるし、マリという国はなかなか一筋縄では通用しないところだね。
マリ航空の四枚プロペラ双発のアントノフは、ほぼ時間通りの8時ちょっと過ぎに無事出発した。
マリ航空のおばさんの「満員だがあなたのために一席だけ見つけてあげた」という恩着せがましい言葉どころか飛行機の中はがらがらだ。
1時間半ほど飛んで、モプティの郊外のセヴァレへ着陸。
ここで30分ほど空港待合室へ行く。
セヴァレを10時に離陸して10時45分にトンブクトゥの空港へと着陸する。
飛行機の窓から眼下に広がるニジェール川流域を眺めていて理解できた。
このニジェール川は、雨季には水量が増して川幅が広くなり、乾季には川幅が狭くなる。
乾季にはその残された氾濫地帯がだだっ広く続いているんだよ。
あちこちに川に取り残された湖というか池が散らばっているのが見える。
雨季には大型船が航行できるのに対して、乾季には喫水の浅いピローグという小型の船しか走れないというのもよく理解できる。
これではまともな道路なんかは作れるはずもない。
地上を行くとしたら4WDででもなければ動けないだろうし、それも地獄のような旅になることだろう。
そんな旅なんて、若くて元気があって、冒険心旺盛でなければとてもとても、無理だよ。
そう思ったが、結局、自分が砂漠の中を4WDで走ることになる。
そんなことは、全く予想しなかったよ(涙)。
でも、それがあったから、この西アフリカ旅行記は、面白いわけだしね(笑)。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20091011