自称ジャーナリストの嘘@THIES駅/セネガル
15時45分、列車は「THIES」という駅に到着する。
コンパートメントに戻ると自称ジャーナリスト氏が「ここで30分停車だ」と親切に教えてくれる。
僕は窓立度さんに「30分停車だって」と言って、二人で列車を降りて駅の構内をうろうろする。
窓立度氏はふらふらと駅を出ていったようだったが、僕は二三枚写真を撮って自分の部屋に戻った。
とたんに列車は何の前触れもなく急に動き出した。
「あれっ、いやに動き出すのが早いな。
これでは窓立度さんは、列車に戻ってこれなかったんじゃないかな」と心配になる。
ジャーナリストの黒人はニヤニヤと笑っている。
ひょっとしてこの黒人は、僕たち二人をティエス駅に置き去りにしようとしたのではないかと、酔っ払った頭に疑いが湧いてくる。
しばらくしても窓立度さんは部屋に戻ってこない。
昼からビールを飲んでいるので考えがまとまらない。
もし窓立度さんがさっきの駅に取り残されたとすると、これはもう打つ手はないだろう。
諦めるしかない。
問題は自分のことだ。
この怪しげな黒人と一緒の部屋にいることは危ないかもしれない。
ということは部屋を移らなければならない!
僕は黒人が部屋を離れたときに、隣のコンパートメントにいたモハメッドに「僕はこちらの部屋に移ります」と言った。
車掌にも部屋を移動することを告げる。
モハメッドの部屋の上段のベッドに横になっていろいろと考える。
もし乗り遅れたのなら、窓立度氏を救う手立てはない。
まあ、旅慣れてはいるし、金も持っているだろうから、荷物さえ駅に届けておけば、自分で何とかするだろう。
そう心を決めてうとうとと眠りにつく。
冷房のないコンパートメントで昼間、横になっていると、客車自体が熱を持って壁を触ると熱く感じられる。
持ってきたミネラルウォーターはもうお湯になってしまっている。
ボーッと寝ていると、「西本くん、まだ寝てるのかね!夕飯を食べないか」と声がかかった。
眠い目で見ると窓立度氏だ。
あわててレストランカーに行って夕食をとり、ほっとしてさらにビールをどんどん飲む。
「置き去りにされたのかと思いましたよ!」と、告白する。
「あの駅には何もないのがわかったので、すぐに列車に戻って、ここでビールを飲んでたんだよ」とのこと。
「何で部屋を変わったの?」と聞かれるので、正直に、自称ジャーナリストが怖いので、と答える。
「そーかなー。いいやつだよ」と窓立度氏。
「そういえば、さっき長いナイフを取り出して刃を研いでて、ちょっと気持ちが悪かったなー!」だってさ。
でもまあ、これ以上のことはなかったので、この話はこれで終わりだ。
しかし考えてみれば、僕が置き去りにされた可能性も高かったわけだ。
旅の格言がまたひとつ。
「旅に出たら、誰の言うことも、絶対に信じてはいけない」
それから、さらにもう一つ。
「列車は気まぐれに動くもの」かな。

【写真】TIES駅で
【旅行哲学】旅に出たら、誰の言うことも信じてはダメだ(日本でも同じだけどね)。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20070129