《説経1:前途有望な国立大学医学部学生(T−2)への言葉》

僕が海外旅行へ出る理由は、日本人を観察し、日本と日本人を考えるためだ。
もちろん、観察しているだけでは、思考が深まらない。
だから、興味深そうな旅人とは、話をする。
しかし、ただだらだらとありふれた話をするだけでは、だめだね。
とにかく説教をして反応を見る。
すると、説経された方は、納得したり、怒ったり、泣いたりと、いろいろ反応をするので、そこに本質が見えてくることがある。
ここまで行って初めて、考える材料が出来るってわけなんだよ。
例えばありふれた旅行自慢の日本人に会って、ふむふむと自慢話を聞いても、何の役にも立たない。
そんなどうしようもないものをおとなしく聞いてあげると、旅行自慢が増長して、彼の人生に悪い影響を及ぼすかもしれないからね。
そこで、わざと、旅行自慢をひっくり返して、ギャフンと言わせる。
そして、「何の役にも立たない海外旅行に出たことを自慢したりして、申し訳ありませんでした…。僕の人生は間違ってました(涙)」と言わせてはじめて、世界旅行者が話をする意味があるわけだよ。
まあ、そんな風に馬鹿にすると、たいていは話の途中で怒り出す。
それもまた、彼(彼女)にとってはいい経験だから、僕は敢えてそういうことをやっている。
自分の立場をよくしようとか、人からよく思われようとかそんなことは考えずに、相手のために話をする。
だからこそ、僕は世界旅行者さんと、慕われているわけなんだよ。
さて、僕の分類によると、大学生が休暇を利用して海外旅行をしている場合、タイプT−2と分類してある。
これは、医学部も法学部も工学部も、一流大学も三流大学も関係ないので、メモして置いてください。
旅先で、一流国立大学の医学部の学生と聞いても、それを素直に信じてはいけない。
旅先で出会うのは嘘つきが多いんだよ。
本気で自分の病気の相談をすると、間違った治療法を教えられることだってあるのだからね。
「頭痛を治すには、腹痛を起こせばいい」などとアドバイスする人は、多分本物の医者ではないだろう。
まあ、旅先の話は、半分信じて、半分は疑っていていい。
はっきりした嘘つきに出あったら、別にそれを追求することなく、ただ話をしないようにすればばいいだけなんだよ。
でもこの医者の卵は、軽く話をした限り、本物のようだった。
昔は、医学部の学生というものは、さすが医者の卵という、知的で誠実な雰囲気がしたものだ。
また、勉強ばかりしていたので、海外旅行に出る医学生というのも多くはなかった。
現在では、日本全体が軽くなったせいだろうか、旅先でもあちこちで医学部の学生に出会うようになった(ただ、半分くらいはウソだと僕は考えている)。
嘘つきを捕まえても仕方ないので、本物の医者の卵に会いたいときは、医師国家試験が終わって合格者発表までの期間に海外に出るのがいいと、僕は昔からアドバイスしている。
注)《イスタンブールで医者の卵をつかまえよう!》に、医者との出会いかたが、詳しく説明してありますから読んでね♪
正直言って、医者という職業は、なかなか大変なものだよ。
また、誠実にまじめにやっていたら、お金は儲からない。
でも、いい加減にやって金儲けをするつもりなら、なにも医者にならなくても、他の仕事でも一緒だ。
そういう意味では、現代日本でわざわざ医者になるというのは、なかなか難しい選択だろうね。
僕が医者にならなかった理由は、かなり違うけどね。
僕の場合、高校時代の成績はもちろん、十分に東大を狙える位置だった。
無理をすれば東大の医学部へ合格することも、無理ではなかった。
出身が九州だったから、九州大学の医学部程度なら確実に合格するレベルだった。
ただ、そのころは、私立大学の医学部の裏口入学や、何千万円という入学金を取る医学部の話がたくさん報道されていた。
そういう時は、国立大学の医学部に安く入ればオトクではないか、と考えるのが普通の人間だ。
僕はそうではなく、「私大医学部に何千万円か払えば誰でも医者になれるのなら、医者になってもちっとも偉くないってことじゃないかな」と考えて、医学部へは行かなかったんだよ。
頭がいいのに医者になんかなったら、世間の見る目は、三流私大の馬鹿医者とおなじ「医者」でしかないんだから。
山崎豊子の「白い巨塔」を読んでしまった。
それで、「医学部っていうのも人間関係が面倒そうだし、自由がなさそう…」と、イヤになっちゃったってこともあるかもしれない。
でも本当の理由は、僕は自分の身体のことに異常になくらい神経質に気を使うので、医者になったら周囲が病気だらけで、自分が精神的にダメになるだろうと、そういう気がしたせいなんだ。
それに、もちろん血を見るのが怖かったしね(涙)。
そういうこともあって、医者の問題についてはいろいろと考えているので、医者の卵と話すのに十分な情報や、アイディアを持っている。
そこで、まず「医者はいいですよねー。食いっぱぐれがないし」「医者は看護婦とやり放題なんですよねー♪」「女の子にはモテモテだし」と、持ち上げる。
人とはじめて出会ったら、とにかく相手を持ち上げることが大切だからね。
しかし、そんなありふれたおべっかは、医者の卵は聞き飽きている。
だから、次に相手の問題点を指摘しなければ、話は深まらない。
「医者もいいですが、付き合う人間が陰気ですからねー。病人ばかりだし」なんてね。
また、現代日本では、まじめにこつこつやっているだけでは、医者では大金持ちにはなれない。
米国などでは、専門医の収入は非常に高く、専門性を高めてプロになれば、高収入で優雅な生活が出来る。
だが、日本では健康保険制度がネックとなっていて、いくら専門化しても、収入が増えないんだよ。
昔の医者は、自分で個人病院を立ち上げて、リベートたっぷりの薬を出しまくり、薬価差益でぼろ儲けをしていた。
健康保険点数のごまかしをやることで高収入が見込めた。
現在では、個人病院の将来は真っ暗で、勤務医として一生働くことになるのがほとんどだ。
それなら、ある意味、普通のサラリーマンの方が気楽でいい、ともいえるよね。
さらに、社会全体に医者や医療そのものに対する信頼が落ちてきているので、本当には尊敬されていない。
本当に尊敬されないで、口先だけでミエミエに持ち上げられていると自覚していたら、それは、あんまりキモチよくないよね…。
「これからは医療ミスすると、すぐに訴訟起こされるし、大学教授になったところで、金にはならないよねー」と、同情する。
そうすると、もちろん、将来のことを考えている医学生の共感を得られる。
そして、ズバリと提案する。
「世の中、気楽に金儲けするのが一番いいんだから、包茎手術専門で金儲けはどうかな?」とアドバイスをする。
医局に残っても金にはならないし、一流大学の医学部だと頭のいいやつばかりだから、出世も大変だ。
包茎手術で金をもうけて、女遊びをするのも一つの考え方だよね」ってね。
すると彼は、心の中に思っていたことをズバリと指摘されたようで、考え込んでしまった。
まあ、正直な話、現代では最初から医者になりたくて医者になる人は少ない。
高校の成績がいいために、ついうっかりと医学部に入ってしまうんだよ。
すると、たしかに学生時代はモテモテなんだけれど、卒業してからの勉強も努力も大変だ。
ま、ある程度の金は稼げるけれどね。
医学部を出て、系列の病院に勤めて、人間関係の網の目に取り込まれてこつこつ働いていく。
これならば、どこにでもある日本人の普通の生き方だ。
わざわざ医者になった意味がない。
まだ歌舞伎町のホストの方が、面白い人生かもしれないよ。
長い人生で考えたとき、一生医者をやって、幸せになれるかどうか、それはわからない。
という風なことを、次々と吹き込んであげた。
こういう風に、優秀な一流大学医学部の学生に、人生への疑問を抱かせた。
つまり、説経は一応成功したと言えるだろうね。
と、説教を一丁あがりにして食器を戻して、ビールを別に一本買って、また別のテーブルに座り、周囲をよく観察してみる。
するとそこに、日本人旅行者タイプ9(T−9)を発見した。
T−9も、特に中国には多いような気がする。
次は、T−9の話をするから、お楽しみにね♪
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080818#p2
(「世界旅行者・海外説教旅」020)