「上海〜バンコク旅行記(2002)」より、061《半年の旅に出た大学生のアジア横断旅行を徹底的に否定して、アフリカを提案する》

【サパの広場をちょっと上がったところのホテル】
同じロータスホテルに泊まったのが、一緒にやってきた金髪くんと亜瀬尾くん。
彼らは、105号室に2人で泊まることにした。

ここで彼らの紹介をしておこう。
この「上海〜バンコク旅行記(2002)」を最初から読んでくれている愛読者にとっては、亜瀬尾くんはおなじみの人だ。

僕は亜瀬尾くんに中国は昆明の「昆湖飯店」の階段で、「みどくつさん!」と声をかけられた。
その日に、一緒に夕食を取って、彼の旅の話を聞いた。

もう1人の金髪くんとは、河口からラオカイの国境越えで出会った。
そのあと、歩きながら、バスに乗りながら、食事をしながら、彼の旅について聞いていた。

金髪くんは大学生だ。
彼は大学を休学して、年末まで旅行する計画。

これまで、中国に3週間ほど旅をした。
これからベトナム、カンボジア、タイと移動して、飛行機でインドへ入る。

続けて、パキスタン、イラン、トルコと進み、最終目的地はイスタンブール。
イスタンブールから日本へ飛行機で帰る計画だ。

彼は「イスタンブールから日本への片道切符の切符代として、4万円を別に取ってある」とか。
4万円で本当に日本へ帰れるかどうか、それを僕はかなり疑問に(不可能だと)思った。

でも、イスタンブールへ着いたころは、金髪くんも旅慣れしているだろう。
いまは大学生でもカードの一枚くらいは持っているだろうから、お金が足りなくても帰国するのに問題はない。

でも無事にイスタンブールまで行って、日本へ戻ってきたところで、それではちっとも面白くない。
だって、アジア横断というのは、ポピュラーすぎるから。

金髪くんは、日本を7月に出て年末まで、つまり6か月の旅に出ているわけだよ。
せっかく6か月の自由な時間があって旅に出たのに、それがアジア横断(涙)ではもったいなくないかな。

彼が日本を出る前に僕が相談を受けていたら、僕はアジア横断は勧めなかった。
というのは、アジア横断はありふれすぎていて、独創性がないから。

人がやるような旅を、人がやるように、同じことをやったところで、ちっとも面白くない。
だいたい「イスタンブールから日本への片道切符が4万円という話」も、金髪くんが誰かの適当な話を聞いたか、インターネットの不確かな情報を信じ込んだだけに決まってるからね。

金髪くんは中南米旅行に行くべきだった、と思う。
6ヶ月あれば、中南米一周旅行は可能だ。

中南米旅行の出発点をロサンジェルスにすれば、米国の状況もわかる。
中南米を見れば、ヒスパニックの力も肌で感じることができる。

南米の雄大な自然も見ることができる。
マヤやインカの遺跡を見て、古代文明に想いを寄せることもできる。

各地で移住日本人の後をたどることも可能だ。
また、ラテンアメリカの人たちの世界観に触れて、自分の考え方を見直すこともできるかもしれない。

中南米旅行をすれば、彼がどういう道に進むにしても、非常に知的な刺激となり、彼の将来にとって有益だろう。
ところが日本人にとって手垢のついた「アジア横断旅行」なんかやっても、全く知的刺激にはならない。

旅行ルートは決まっているし、国境情報も日本のインターネットで調べられる。
それよりもなによりも、アジア横断ルートは日本人だらけなので、日本語だけでやっていける。

途中には日本人の集まる宿(日本人宿)もあり、すぐに日本人と知り合うので、1人で旅することは不可能だ。
実際、彼は亜瀬尾くんと大理で出会って、それから一緒に河口へ移動したわけだ。

そのあと、僕とラオカイ国境で出会った。
亜瀬尾くんと世界旅行者とグループになった。

それからあとは、僕の言うとおりに両替をして、僕が交渉したマイクロバスに乗った。
そして、僕が決めたホテルに泊まった。

今日は、僕が言うとおりに翌日のハノイ行きの列車の切符を手配した。
つまり、彼は自分の考えでの旅行なんかしてないんだよ(涙)。

実は、アジア横断なんて、誰でもできることで、とても簡単なんだ。
逆に1人になることの方が難しいくらいだ。

アジア横断では、ただ出会う人と一緒にうろうろしていればすんでしまうんだ。
何の話のネタにもならないくらい簡単なものなんだよ。

知的刺激もなく、新しい経験もなく、誰かに語るだけのものも全くない。
実質的には何も得られないわけだから、アジア横断なんて、時間の無駄だよ。

金髪くんは日本から中国へ渡って、これまで3週間も旅をした。
何で若者が、中国を三週間も旅する意味があるだろう。

中国でどこへ行ったのか聞くと、「九寨溝(きゅうさいこう)へ行った」と言う。
僕は「その九寨溝ってなんだよ。そんな中国人しか知らないところへ行っても意味ないよ」と断言してあげた。

このとき実は、九寨溝がどういうものか、存在自体を全く知らなかった。
今はある程度知られているが、僕が旅をしていた2002年の段階では、誰も知らなかったと思うよ。

中国なんて日本から近いわけだから、大学生のいま、わざわざ旅をする意味がない。
歳をとってもいつでも旅が出来る。

社会人になってもらえる短い休暇でも、簡単に旅が出来る。
学生時代に長期の休みを使って、わざわざ訪れる意味がないわけなんだよ。

それを言い出すならば、東南アジアもそうだけどね。
学生時代の長期旅行で東南アジアや中国、韓国なんか(さらに言えば、オーストラリアも)へ旅をする人間は、基本的に大きな間違いをしている。

学生時代に長い休みが取れるときは、日本から遠い国を旅するべきなんだよ。
もちろん学生ならば、知的刺激が得られる国に行った方がいい。

それは昔の学生のように、まずは、ヨーロッパだよ。
現代社会はヨーロッパ文明を基本にしている。

これから社会に出て行く学生ならば、まず自分の目でヨーロッパを見なければならない。
または、米国へ行ってもいいだろうね。

昔はアメリカ一周バス旅行なんかもあったが、いまは流行らない。
もちろん世界旅行者はロンドンからニューヨークに飛んで、北米をぐるりと一周したことがあるけどね。

なぜ今現在北米一周バス旅行が流行らないかというとだね、北米の宿泊費が暴騰したからだ。
何しろ僕が旅行していた1988年は、ほとんどYMCAに泊まっていて、シングルの一泊が20ドル台だった。

僕の記憶で一番高かったのが、ワシントンのバスディポで電話をかけて見つけた40ドルのホテルだったからね。
あとはだいたいシングルで20ドルちょっと。

これだから北米を2ヶ月もバス旅行して、ニューヨークやロサンジェルスに長期滞在できたわけだよ。
いまは、とにかく宿泊費が高いから、僕のような旅は誰もできないだろうね。

まあ、そういう旅をしてきたから、僕は「日本でただ1人の本物の旅行者」として、崇め奉られているわけだ。
いまでも、ヨーロッパや北米をユースホステルに泊まればなんとかなる。

だから学生時代の長期旅行については、ヨーロッパや北米を考えた方が将来の役に立つだろう。
ただ、卒業旅行の場合は、ちょっとちがう。

卒業旅行については、特別に「卒業旅行で冬に2ヶ月ほど旅をしたいのですが、どこへ行ったらいいでしょうか?」で、すでに回答を与えている。
知りたい人はリンク先を読んでください。

というわけで、僕は金髪くんのアジア横断旅行についてダメを出す。
ダメだと言ってても仕方がないので、さらに話を続けた。

インドまでは仕方ないが、続くパキスタン、イラン、トルコがつまらない。
インドのムンバイからケニアのナイロビへ飛んだほうがいい。

こうアドバイスしたわけだ。
やはり若者は、アフリカか南米に行って、生きるか死ぬかの体験をしてもらわないと迫力がないからね。

金髪くんはとてもイヤーナ顔をしていたが、でも、僕としては正しいことをズバリ言ったので、気持ちはさわやかだ。
金髪くんのアジア横断旅行を聞いたときに、僕はいやな気分になってたからね。

これで金髪くんへの説教は終わった。
僕のすばらしい説教で彼が変わるかどうか、それは彼の勝手なので、ぼくはどうでもいい。

さらにサパの道を歩いていると、僕が命を助けたオランダ人のミミを見つける。
カフェにいたので、話しかける。

僕は、「ロータスホテル」の208号室にいると、ミミに教えた。
「暇ならば来てよ」と付け加える。

【サパの通り/電信柱の左横の白い部屋が僕が泊まったところ】
この日は結局、国境を越えてベトナムへ入り、旅行者をまとめてサパへ来て、ホテルを見つけて、翌日の列車の切符を手配して、金髪くんに旅のアドバイスをした。
これで今夜、ミミが僕の部屋にやってくれば、完璧だね。

僕は部屋で、シャワーを浴びてチンコを好く洗い、新しい(穴の開いてない)パンツをつけた。
その夜、ミミが僕の部屋に来たかどうか、それはヒ・ミ・ツです(涙)。

【旅行哲学】旅に出ると1日で山のようなことができてしまうもの。
http://d.hatena.ne.jp/worldtraveller/20080302